|
Last Tear -----------------------
この涙は何だ? 俺らしくねえよ。泣くなんて俺らしくねえ。 今更こんなもん流しても意味なんかねえ。 胸がズキズキする。意識が薄れてく。 半開きの眼で胸の辺りを見る。良く見えないから手で胸の辺りを触ってみると何だか生暖かかった。ドロッとしたのが手について…で、それを見てみる―――…血、だ。 ああ…クラウド、そんな顔すんな。 泣きそうな面なんか見せんなよ。泣いてる俺の顔なんか見るなよ。 そうだ、お前が泣く必要なんて無いんだ、どこにも。俺が泣くことだってきっとおかしいんだ。 ――――――だけど俺、最後くらい許されるかな? 何だかそんな気がしてるんだ。
俺はいつだって耐えてきたんだ、ホントは。
ドクン…ドクン… ――――――――心音。 ズキン…ズキン… ――――――――傷口の痛み。
ソルジャークラス1stになって、初めてセフィロスと任務を共にした日、緊張してた。 相手はあの英雄様だ。でも俺は緊張してるなんて気づかれたくなくて、わざとセフィロスにタメ口を利いた。 “よォ、セフィロス。俺ザックス、よろしくな” 内心殺されるんじゃないかって心臓がバクバクだったけど、セフィロスは少し顔を顰めたくらいで別に文句も何も言わなかった。 その任務の時、たまたま敵に出くわして、俺はやっぱりわざと先制攻撃をしかけた。 本当はセフィロスが構えてて、直ぐに切り込む体勢だったのに、俺はそれを知ってて先に自分が動いたんだ。セフィロスの一撃で敵が倒れるって知ってたから―――――だから俺は、俺の戦うところ見せたくて、先に攻撃した。 だけどコレがミス。 寸でのところで防御アップされて俺の攻撃はスカになった。その後すぐにセフィロスが一撃食らわせてその敵は呆気なく倒れたけど、セフィロスは内心少し不機嫌そうだったっけ。 “余計なことはするな” そう言ってた。 そう言われて、凄い悔しかったし、すごく恥ずかしかった。俺は心のどこかでセフィロスに“良くやった”って言われたかったんだ。それが反対に不様なトコ見せちまって―――――ホント、落ち込んだな。 俺は、その一件で任務はもう一緒にはできないだろうって思ってた。悔しいけど俺のミスだしって、そう思ってた。 けど何でか、その後も俺はセフィロスと同行し続けることになったんだ。それは本当に不思議なことだったけど、嬉しかった。 俺は、セフィロスに一目置かれるようになったんだって、そう思ったら―――――。
ある日セフィロスは言ってた。 「お前はデキる奴だと思ってる」 そう言われたのは、その最初の任務からもう半年以上経った頃のことで、俺はすっかりセフィロスと組むようになってた。 その間俺は、板についたタメ語でもってセフィロスに接してて、皆それを不思議がってたのに、もうそろそろそれも馴染んできた頃だったんだ。だから周囲から見たら俺とセフィロスってまるで仲が良いふうに見えたんだろうな。 でも実際それってのは違う。 俺はそうしてセフィロスに慣れた口と態度取ってたけど、実際にはすっごい格差を残したままだったんだ。 だから俺、セフィロスにそう言われた時は、本当に心からビックリした。 俺が?、って。 この俺がセフィロスの中で“デキる”だって? ――――――――とても信じられない。 まさか冗談だろ、って思った。そう言われるの嬉しかったけど、嬉しい以上に信じられないし、それに自分自身それを否定してた。 俺はそんなんじゃねえよ、って。 俺はセフィロスに認められるほど、凄くねえって。外見だけ頑張って同等を装ってみたって俺の中にはいつだって焦りが渦巻いてて、いつだって緊張してた。 いつだって、いつだって、いつだって。 怒らせたらどうしよう、トチったらどうしようって、そう思ってたから。 それでも俺がそういう素振りを見せなかったのは、セフィロスに“こんな奴”って思われたくなかったからだ。セフィロスに“良くやった”って言われてみたくて初めて先制攻撃したときから、俺の中には変なプライドが出来てて…それで俺は、俺自身が作り上げた“自信ある俺”を頑張ってセフィロスの前で見せてきた。 俺の中の精一杯の“デキる俺”を。 だから俺は、折角そう言ってくれたセフィロスに向かって、おちゃらけて、 「おいおい何言ってんの、突然。訳分かんねえし」 そう笑ってはぐらかした。 セフィロスはそんな俺に向かって真面目に「本気でそう思ってるんだぞ」って言ってくれたけど、やっぱり俺ははぐらかしてその話題を振り切った。 セフィロスは―――――――その後はもう、何も言わなかった。 それ以降ももう、そんな言葉が出ることは無かった。 俺は――――とても大事な、とても大切な言葉を、台無しにしたんだ。
それでもその後、セフィロスと俺の任務は続いてた。 相変わらず俺は、俺という人間を作って頑張ってた。 セフィロスは何も言わなかった。 俺達は少しづつ、少しづつ、不要だった言葉を増やしていって、それから、不要だった時間を共にして、同じ過去を共有してった。 それは思えば、財産なんだな。 俺が俺として頑張ってきた、緊張だらけの、それでも糧となった、財産。 そういうものをなるべく押し込めて押し込めて生きてきた俺は、多分多くの言葉を言い忘れてきたような気がする。 今ではそれが分かる気がするんだ。
思うんだ。 言い忘れた言葉は何かな、って。 押し込めてた気持ちは何かな、って。 俺が俺という人間である為に、この最後に解く緊張の後――――俺が言わなきゃいけないこと。
ふざけんなよ、そう怒鳴ってやるのも良い。 アンタみたいな裏切り者なんか、どっかでのたれ死んじまえば良いって叫んでやりたい。 だけどソレすら出来ずに、残された小さな手を引いてた。 俺はさ、セフィロス。 アンタが憎たらしいよ。 ほんっと、マジにムカつくよ。 だけど―――――――だけどソレって、そう思おうとしてただけなのかもしれないんだ。 クラウドの手を引きながらアンタを憎む振りをしてただけなのかもしれないんだ。 今こんなふうになって、俺はやっとそういうトコを見つめなきゃって思えたんだ。 もう、それは――――――遅すぎるけど。
だけど、最後くらい、本当の俺でいたいから。
ドクン…ドクン… ――――――――心音。 ズキン…ズキン… ――――――――傷口の痛み。 ドロリ…… ――――――――流れ出る、血。
止まる、止まる、止まる………
―――――――ああ。 ああ、クラウド。 そんな泣きそうな面すんな。 ちょっとばっかし別れるだけさ。悲しいことなんて何もない。 むしろ俺は、お前のそんな顔を見る資格、無いんだ。 お前の手を引いてる時でさえ俺は、俺を作ってたんだから。 でもそれは、もう終わりだ。 俺は俺になる、今此処から。 ずっとずっとずっと昔に、置き忘れてきちまった本当の俺に戻るから―――――だからお前はそんな顔するなよな。 俺のこの涙は、悲しい涙なんかじゃない。 クラウド、お前へのエールと同じさ。 そして――――――あの人への、感謝と同じさ。 結局憎めもしない、俺の好きだった色んなもんへの“ありがとう”って意味なんだ。
なあ……
我が侭だって分かってるけど頼みがある。 もしもこの先……クラウド、お前が生きてくこの先、あのセフィロスに会うことがあったら伝えて欲しいんだよ。
「俺はアンタが好きだったよ」って、さ。
END
|
■ back ■