ヒカリ。

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誰だって頑張って生きてる。

誰だって毎日色んなこと必死でやってる。

だけどさ、それなんだけどさ。

上手くいかないようなこと、あるだろう?

何だか気持ちが入らないようなこと、あるだろう?

 

 

 

「ああああ〜もうっ!ちくしょう!!」

ぼすっ!

そう音を立てて背中にあったクッションを思い切り放る。…ものの、どうにも気持ちは収まらない。この感情は何なんだろう?苛々?苛々だとしたって、一体どうして苛々するのか?

ザックスがかりかりしている理由は、今日のミッションが上手くいかなかったという単純な理由からだった。

まあ理由としては至極単純なのだが、しかしその裏には色々な事情があったりする。というのも、そのミッションが上手くいかなかった理由の大本は、ザックスではない他の誰かにあったからだ。そう、要するにこれは“とばっちり”みたいなものなのだ。

「そうカリカリするな。大人気ない奴だな」

「ええ、ええ、すみませんね!そりゃ俺は大人じゃないですよーだ!」

「…面倒なヤツ」

隣に座っているのは、セフィロス。

あんまりにもムシャクシャして、酒でも飲み明かしたいと思い、考えた挙句に誘ったのがセフィロスだったという次第。そんなわけで此処はセフィロス御用達のバーなのだが、ザックスときたらバー独特の雰囲気をぶち壊すが如くの荒れっぷりだった。いや、というよりも拗ねようというべきか。

「そもそもな、ザックス。お前は英雄を目指しているんだろう?それならば、そんな小さなことでガタガタ言っているわけにはいかないぞ。この先そんなことはざらにあるだろうからな」

「そんなこと言われたってむかつくもんはむかつくし」

「だから…」

はあ、と溜息をつくセフィロス。

それに構わずザックスは酒を煽ると、また新しいグラスを追加し、カウンターでぶつぶつと文句を言いながらナッツをつまんだ。

―――――――そりゃあ。

ミッションのトップが自分である以上、責任の全てを自分がとるというのは当然の話である。だから、目下の兵士がミスを犯したことも、全ての自分の監督不履行ということになるわけだ。それは分かってる、十二分に分かっている。でも。

「でも聞いてくれよ。アイツラさ、セフィロスがトップの時のミッションじゃあ素直にミスを認めて謝るんだぜ。それが俺の時は違うの!トップが強くないからじゃないですかとか言うんだぜ!?ありえねえ!!」

素直なタイプのザックスにしてみれば、相手によって態度を変えるなんていうことは許されない事である。しかし、それが普通の人間にとっては、そういう可変的な態度というのは普通のことなのだ。むしろ彼らにとってそれは処世術の一つなのだろう。

「そりゃ俺はさ、セフィロスと比べられたら太刀打ちなんかできないけどさ…。でも!だからってその態度はないだろって思うわけよ」

「まあ…それはな」

セフィロスはあくまで冷静にそう返すと、からん、とグラスの中の氷を揺らした。いかにも風情がある。

しかしザックスは、そんな趣のある飲み方をする余裕など無かった。

大人気ない、と言われれば、確かにそうなのだろう。それは確かに頷かざるを得ない。どんな理不尽なことがあろうと、この神羅という社会の中では、自分一人の意見が正しいものとして通ることなどないのだ。だから、適度に妥協するのが賢いやり方なのだ。

しかし、それが妥当と分かっていても、納得できないことがある。

どうして、こんなに自分に正直に、頑張って毎日を生きているというのに、納得できないものに無理やり納得をしなければならないのか。それはつまり、自分の心に嘘をつくことと同じだ。そんなのは耐えられない。そんなのは嘘つき人間のすることだ。

「―――それで。ザックス、お前は何が望みなんだ?」

「望みぃ?」

「そうだ。お前が納得できないことは良く分かった。それで、お前はどうなれば納得できるんだ。お前が望むのはどういう状況なんだ」

「どうって、そりゃ…」

そりゃあ、アイツラが人によって態度を変えないことだ。そうすればこんな理不尽な気持ちにはならないだろう。

―――――いや。でも待てよ。

それより前に、アイツラがミスをしなければそれが一番良いはずだ。

だって、そうすれば自分のミスだなんて言われなかったはずなのだから……。

そこまで考えて、ザックスはそのすべてを口にしてセフィロスに告げた。どういうことが自分の望みなのか、と。

それを聞いたセフィロスは、一つ頷いて、なるほど、などと言う。

「つまりお前は、自分のミスという結果にならなければそれで良いというわけだな」

「へ?」

「そういうことだろう?仮にその兵士たちがお前に文句を言ったとしても、結果的にお前のミスということにならなかったら、多分お前はそんなに荒れていないんだろうが。発生したミスの原因は兵士にあると、お前には責任が一切ないと、そう言われていたら何とも思わなかったんじゃないか?」

「そりゃ…」

カリッ、とナッツが弾ける。

どこか苦みのあるナッツの味が口の中に広がっていく。

――――−−そんなふうに言われると、何だか自分が悪者みたいだ。

確かにセフィロスの指摘を受けてみれば、そうであるような気がする。きっとセフィロスの言っていることは正しいのだ。しかしそれを正面から受け入れてしまったら、何だか自分がとても浅ましい考えの持ち主であるような気がして、それがどうにも気分悪かった。

しかし、例えばそこを認めたとしても、やはり解せない部分はある。

だって仮に、こんな思考がどんなに浅ましいものだったとしても、かの部下兵士達の言動よりはマトモだと思うのだ。

自分のミスになってしまったことに悔しさを覚える。

相手によって態度を変えて上手くミスを切り抜ける。

どう考えたって―――――−と、思うのに。

「ザックス」

「はい」

呼ばれて、思わずザックスは「はい」などと律儀な返答を返す。

それが可笑しかったのか、セフィロスは少し笑った。

「お前はどうして英雄になりたいなんて思った?」

「どうしてって…まあ、普通にカッコいいから?」

「カッコいい?それだけか?」

「いやー…うん。多分…」

何とも歯切れの悪い返答をしたザックスは、続きを濁すようにアルコールを流し込む。

どうして、なんて、今迄そんなに聞かれたことがなかった。

夢は何かと聞かれる機会は何度かあり、その何度かの機会には当然英雄になりたいと答えたものである。しかしそのときも、何で、などと理由を聞かれたことはなかった。

「ところでザックス。好きな女はいるか?」

「ぶっ!!!」

ザックスはその唐突の質問に派手に噴出した。

おいおい、何だその質問はいきなり!

そう思いながらも、咽喉に入り込んだナッツのせいで、咳が止まらない。

ザックスがそんな調子だというのに、セフィロスはなんらお構いなしという風に言葉をつづけた。

「まあどっちでも良い。仮にお前に好きな女がいたとして、その女の事を何故好きだと思うのか?―――まあ、よくある俗的な質問だがな。お前はこの類の質問に答えを出せるか?」

「そ、それは……まあ、多分…うん」

「そうか。中には、好きに理由は無い、などと宣う人間もいるようだが。どうやらお前は違うらしいな」

「それって何が言いたいわけ?」

「…いや。まあこれは俺の勝手な考えなんだが。物事に理由が無いなんて事は無いと思っているんだ、俺は。だから、誰かが好きだとすれば絶対に理由がある。理由がない、なんてことはない。それが証拠に、他の誰でもなくその相手を選んだのだから。その時点で何らかの”選別”をして、何かの理由をつけてその他の人間を”排除”しているんだ」

何故こんな話をしたかというと、先ほどの話に繋がっているんだ。

セフィロスはそう言って、先ほどの話…何故英雄になりたいか、という質問に戻る。

つまり―――――英雄になりたい”理由”について。

ザックスはカッコいいから、という理由を述べたが、セフィロスにとってそれは、どうにも不十分な理由に感じられた。だから何か他に本当の理由があるはずだ、と、セフィロスはそう踏んでいたのである。

 

 

 

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