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DILLBACK 「あ〜あ、良いよなあ。セフィロスは」 それはいつも俺の口癖だった。 セフィロスは憧れであり戦友でもある。俺にとっては又とない知り合いの一人だ。俺には知り合いとかそれより仲の良い友達とか親友とか沢山いるけど、多分その中でもセフィロスはトップクラスの人間。 俺はどっちかっていうと文句は言わないタイプの人間だったけど、セフィロスの前でだけは何故かいつも文句を言ってた。年下の人間から見れば面倒見が良いって言われてる俺も、セフィロスに対してだけは我侭を言えた。 本当に、又とない知り合いの一人。 俺にとってはすごく大事な、そんな奴。 「また不平を言うか、お前は…。今度は一体何だ?」 例によって口癖を連発した俺に、テレビを見てたセフィロスが呆れたふうに振り返る。 明日の事でちょっと話し合おうといって立ち寄ったセフィロスの家。この家に来ると大体俺はいつもすぐには帰れなくて、そのままズルズルとセフィロスと話をする。今日もそんな具合で、俺は例の口癖を連発してた。 「だってさ、セフィロスは後世に名が残るんだぜ。だけど俺なんて生きてても死んでても同じようなもんだろ?」 「何だそれは。お前そんな事を常々考えてるのか?」 「そりゃ当然考えてるぜ。その点セフィロスは良いよな〜って」 俺は臆面も無く羨ましい光線をセフィロスに向ける。 俺の言ってる事は強ち嘘ってワケでもない。だってそうだ、セフィロスは英雄で、俺は一介のソルジャーで、例え同じ戦死をしたって悲しむ奴の量が違うってもんだ。別に悲しむ奴の人数で人間が決まるわけじゃないけど、結局後世に名が残るってことは、どれだけの事やってきたかっていう証明みたいなものだと思う。俺は俺なりに頑張ってるのに、死んだら全てパアなんだ。 だけどセフィロスは違う。 生きてる今も皆が功績を称えてて、死んだってそれは同じ事だ。 「…お前はタイムリーな事を言うな」 「ん?」 「いやな、実は先日…ある知り合いの葬式に参列してきたんだ」 セフィロスは突然そんな話をし出すと、今までとは打って変わって真面目な顔つきで俺を見てきた。 「葬式には大勢の参列者がいた。その大勢の人間達は涙に頬を濡らしていたが…その場を去ると無駄話に花を咲かせて笑っていたものだ」 「…へえ」 「―――人は、誰かが死んだとしても笑ってその後を過ごせる程卑怯な存在だ。そんな者達が大勢いたからといって何になる?」 あの参列者達は、その後を幸せに暮らしただろう。 それどころかまた新しい幸せ探しに夢中になり、死者を弔う心などどこかに消し去ってしまうんだ。 そんなふうにセフィロスは俺に言って、違うか?と同意を求めてくる。 俺はそれを聞いて、確かにそれはそうだと思った。例えば名前が残っても…そりゃただの知識か何かみたいに空で言えるってだけの話かもしれない。そこに気持ちなんて微塵も無くて、多分皆は自分の幸せ探しに必死になんだろう。 例えば俺が死んだとしても、俺の知り合いの多くはそうして生きてくんだろう。 だけど俺は、やっぱりそれでも、名前を覚えていてくれるだけでもいいから、そうして欲しいって思う。例え卑怯者達が笑って他の幸せ探しに奔走したとしても、それでも。 ちょっとでも良いから、俺のことを覚えていて欲しいって…何となく思う。 「それでも名前を残したいと、そう思うか?」 「ああ、俺はな」 「…そうか」 セフィロスは呆れるでもなくただ頷くと、だったら名前を挙げる事に精を尽くせと言った。 だけど、それこそ正に一番厳しい所だ。そもそも名前を挙げるって事が難しいんだよ、この世は。 「そりゃセフィロスくらい戦歴が厚いんだったら良いけどさ…俺には無いだろ、そういうの。名前を挙げるのだって夢のまた夢だぜ」 「まあ、そうとも言えるな」 少し笑ったセフィロスは、俺にとっては本当に憎たらしい。勿論、本当に憎いわけじゃないけど、何だか余裕って感じがして腹立つんだ。 でも俺は、そういうセフィロスと友達で良かったと思う。 だってセフィロスは、こんなに名前を挙げてるのに、それを後世に残そうとも思ってないんだ。それはさっきの話を聞けば分かる。 セフィロスは思ってるんだ、きっと。 自分が死んでも、それはどうせ大した事なんかじゃないんだって。 誰しもが知ってるセフィロスでも、死んだら知識に変わるだけなんだって。 セフィロス…そういうのを、分かってるんだよな? 「…あのさ、セフィロス」 俺は何となく、セフィロスに声をかけた。 もうすっかり終わったと思ってた会話を続ける為に。 「俺…セフィロスが死んだら、本当に悲しむぜ。世間のヤツラがセフィロスのことなんか知識だけってふうになってもさ、俺は…その、ちゃんとセフィロスの事…覚えてるからさ!」 「ザックス…?」 ちょっと柄でもないかなって思ったけど、何となく言っておきたかった。でもやっぱりこういうのって恥ずかしい。変に告白してるみたいな気分になって。 でもそれは俺の本心だった。 「だってさ、ほら!俺くらいだろ、セフィロスが大笑いした顔とか知ってんの!他のヤツラが知らない顔だって俺なら沢山知ってるし、やっぱり俺が覚えててやんないとセフィロスも可哀想かな〜みたいなさ!」 何だか段々恥ずかしくなってきた俺は、ちょっとおちゃらけたふうに笑ってそう続ける。 だけどセフィロスは至って真面目な顔してた。 真面目な顔して、俺を凝視してた。 …あれ…俺、何か変なこと言ったっけか…? 「…ザックス」 「お、おう!」 真面目極まりない顔してそう名前なんか呼ばれたもんだから、俺はつい勢い込んでそう答える。 そうしたらセフィロスは、突然笑って俺に言った。 「ありがとう」 「…お…おお…」 俺は驚いて、思わずどもる。 だって今セフィロスの奴、何て言った? ありがとう、って…今迄俺はそんな言葉をセフィロスの口から聞いたことがない。悪いな、とか、すなまい、とかそういう言葉で代用されてきたセフィロスのありがとうを、俺は今日はじめてそのままの言葉として聞いたんだ。 ありがとうって確か……感謝、だよな…? セフィロスは俺に、感謝してるって事だよな…。 「あ、いや…別にさ!そんな感謝とかってそういうほどのもんじゃないんだけどさ。俺はその、セフィロスの事は覚えてたいしさ、だからその〜…」 俺とした事が、その場を見繕うこともできなくなってた。 何とか笑って誤魔化そうとするのが、上手くこなせない。 何だか変な感じだ。今迄こんなことは無かったのに。 「ザックス」 「お…おう、何だよ…」 俺はマトモにセフィロスの顔も見れないままに、そう答えた。 そうするとセフィロスは、突然さっきの話題をぶりかえしてきて、俺にとってはビックリするしかないような事を言う。 「俺も約束しよう。お前が名前を挙げられなくても、そして死んだとしても、俺はお前の事は忘れない。お前の表面ばかりと付き合っているような輩にはできない事…それを、俺がしてやる」 「へ…」 驚いて、言葉が続かなかった。 今迄セフィロスは、俺の事なんか普通のソルジャーとしか思っていないもんだと思ってたのに、何だかその言葉はちょっと違ってた。まるで他のヤツラとは一線を画してるって感じの…そんな言葉だ。 そう驚いてる俺に、セフィロスは憮然と言う。 「大方お前の知り合いは分かってないんだろう?お前がどんな我侭を言うのかも、どんな落ち込み方をするのかも。…お前は他の奴の前ではいつも笑ってるからな」 それなのに俺の前では我侭不平は言い放題だからな、そう言ってセフィロスはふっと笑った。 …どうやら俺のこと、バレてるらしい。 確かに俺が不平不満を言うのも、我侭を言うのも、いつもセフィロスの前でだけだった。だって他のヤツラの前でそんな事できやしない。ザックスが落ち込んでるだとか何だとか言って冷かされるのがオチだしな。 だから俺は何時の間にか、冷やかしもせずに真っ向から対峙してくれるセフィロスだけに、それを言うようになってたんだ。 そのセフィロスが、俺の事を覚えていてくれるって、言った。 他のヤツラが忘れても、セフィロスは覚えててくれるって。 「…へへ、お見通しってワケか。さすがセフィロスだな」 「当然だ。俺を見くびるな」 「見くびってなんかないぜ。それよりやっぱり…」 やっぱり俺は…。 ―――――――うん、セフィロスを…尊敬してるんだ。 そんなの照れて言えないけどさ、俺はいつだってそう思ってたんだな。そういうふうに言えるセフィロスが、しかも言葉だけじゃないセフィロスが、すごく好きだったから。 「”それよりやっぱり…”の後は何だ?」 「は?…あ〜何でもない!ま、忘れてくれ!な!」 俺が慌ててそう言うと、セフィロスはニヤリと笑った。…何となく嫌な予感。たまにセフィロスもそうして悪巧みするんだよな。これには参る。だけどそれももしかしたら俺だけが見てるものなのかもしれないけど。 「俺はお前を忘れないと、さっき言ったばかりだったな?じゃあ、忘れてくれ、というのは出来ないな?」 「そっ、そこは関係ねえだろ!?」 「いいや、関係ある。さあ吐け、ザックス。それよりやっぱり何だ?この俺が珍しく妙に気になるんだから協力くらいしろ」 「も〜良いだろ!?口が裂けても言えねえよ!!」 「じゃあその口を裂こうか?」 「うわ!馬鹿、ちょっとセフィロス!あががが〜ぐ、ぐぢがあああ〜!!」 俺の口はセフィロスの指によって、すっかり口裂け女状態。 勘弁してくれ〜!! …ま、でもこういうのだって、本当はちょっと嬉しいのかもしれない。セフィロスがこんなふうにするの、誰も見たことないんだろうな。きっと俺だけだよな、セフィロス。 だから俺はやっぱりセフィロスの事、どんな事があっても忘れないって思うんだ。こんなふうに馬鹿やってたり、真面目に話聞いてくれたり、色んなことを一緒にしてきたセフィロスを、俺は忘れたりしないからさ。 この世はホントに卑怯者ばっかりだ。 セフィロスに憧れるだけの奴。 俺と馬鹿話だけする奴。 いろんな奴がいるけど、いつかきっと皆、俺達を知識としてだけ閉じ込めてどっかに行っちまうんだろう。それは仕方無いし、きっとそういうヤツラを繋ぎとめるのは不可能なんだろうって思う。 俺は名前を挙げて、覚えていて欲しいと思ってる…だけど。 だけど俺は、きっと分かってるんだ。 卑怯者に何を求めても無駄だって事を。そういうヤツラを信じてバカを見るのは自分なんだって事を。そんな俺の期待も、卑怯者は裏切っていくんだってことを。 だからさ…セフィロス。 俺はセフィロスだけに不平我侭を言って…やっぱりそれで良いのかもしれない。 セフィロスが俺を覚えててくれるなら、そう言ってくれるなら、俺はそれで良いのかもしれない。卑怯な奴がいても、裏切る奴がいても、俺はたった一人セフィロスがそうして本当の俺を知っていてくれるだけで良いのかもしれない。 この先どんな奴に出会っても、俺はセフィロスを信じるからな。 セフィロスが最高な奴だって事を、俺は忘れたりしない。 それができるなら俺は、卑怯者全員を敵にだって回してやるよ。 …な、セフィロス。 END |
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