despair
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 暗闇の中を走る。
 そこは闇、一寸先さえ見えない、足元に忍び寄る危険すら察知出来ない、暗い――闇。
 何かに追い立てられるように走り続けて、ザックスは荒く息を吐いた。
 一体何時からだろう。姿の見えない恐怖に後押しされているような気がする。
 数刻前の自分は、確かに笑っていたのに。声を上げて・・・。

「今日はどうする?」
 クラウドに声をかけられたのは、恐らく七時を回ってから。
 辺りを夕闇が包み始めた神羅ビルの中で。
「どうって・・・帰って寝るだけだけど?」
 不思議そうに答えたザックスに、驚いたような顔をするクラウド。
「だって今日は・・・」

 だって今日は?
 先の思い出せないその言葉。
 一体クラウドはその後に何を言ったのか?

「じゃ、俺はそろそろ行くから、ザックスも早く行った方が良いよ」
 クラウドは笑顔で言う。
 奴は何時も笑顔だ。大体から、笑ってる以外の顔を、ザックスは見たことがない。
 出会ったその時も笑っていた。
「行くってどこに?」
 ザックスが尋ねると、クラウドは苦笑する。
「今言ったばかりなのに、もう忘れたの?」
「忘れたって・・・俺、聞いたっけか?」
「言ったよ、俺」
 そしてクラウドはもう一度口を開いて・・・。
「・・・・・・・・・・」
 聞こえない。
 声が、届かない。ザックスまで。

 闇が追いかけてくる。
 限りない恐怖の足かせをザックスにはめて、あざ笑う闇の向こうの声。
「そろそろ追いかけっこは止めようじゃないか」
 誰かの声が耳元で囁く。
「誰だ?」
 問いかけに返事はなく、自分の声がただ響くだけ。
 響く?
「誰だ!!」
 声を更に上げると、響きは大きくなる。
 音を吸収しない、コンクリートや金属の反射。
 そうか、ここは、どこかのビルなんだ。
 ザックスは思い当たって、立ち止まった。
 暗闇は相変わらず辺りを包んでいたけれど、恐怖よりも状況を見る余裕が出てくる。
 ここは外じゃない。内部だ。
 だが何処の?
 答えは、きっとクラウドの言葉の中にある。
 あの後、ザックスはどうした?
 何をした?

「俺は先に行くから。忘れないで、ザックス」
 にっこりと笑ったクラウドの顔。
 クラウド?
 一体誰だ?
 記憶が曖昧に薄れていく。
「忘れないでね、ザックス」
 柔らかい声が言った。
 何時のことだった?
「忘れないで、ザックス」
 二種類の声が、記憶の中で交じり合い、不可思議な音を作り上げる。
「忘れないで・・・・ザックス」
 朧に消えていく闇の中の声。聞き覚えのある、声。
 柔らかくて、細くて、泣いてしまう寸前のような声。
「ザックス」
 何度も名前を呼ばれる。その度に、ザックスという存在の希薄さに吐き気がする。
「俺は・・・」
「追いかけっこは終わりにしようじゃないか、ザックス」
 ねっとりと耳に残る声。聞き覚えのある、でもそんなに慣れてはいない。
「君の仕事は、もう終わったのだから・・・」

「ザックス!!」
 現実感を伴う声に、現実に引き戻される。
 嫌な汗をかいている。
「俺は・・・」
 いまだ夢と現の間を漂っているような不安定さに、ザックスは目をしばたかせた。
「大丈夫? ザックス」
 心配そうに覗き込むクラウドの顔に、ザックスは不思議な違和感を覚える。
「お前・・・クラウド?」
「そうだよ、どうしたの、一体?」
 肩をつかまれ、揺すられるのに、薄れつつあった記憶がはっきりとしてくる。
「俺は一体どうしたんだ? 寝てたのか?」
「そうだよ。全然来ないから、心配になって・・・」
 泣きそうに歪んだクラウドの表情に、ザックスはまたも違和感を感じる。
「来ないって、どこに?」
「忘れたの?」
 ゆっくりと歪むクラウドの唇。
「約束したでしょう?」
「約束?」
「今日は・・・・」
 
 
「今日は、俺の聖誕祭だったからな」
 獣に下敷きにされて、ザックスは呻いていた。
 これが現実なのか?
 夢のように甘美で、悪夢のように辛辣な。
「また夢を見ていたのか?」
「そうらしい・・・」
 ザックスは呟いて、満足そうに起き上がるセフィロスの長い髪を、かかる自分の頬から払った。
「どうしてあんたは俺を相手にしようとするかな?」
「良いだろう? 近所に他に良い相手がいないんだからな」
「いるだろう? あんたを敬愛するクラウドとか」
 セフィロスはいぶかしげにザックスを眺める。
「一体誰だって?」
「だから、クラウドだよ。ソルジャー候補のクラウド=ストライフ」
 いよいよ顔を不可解にゆがめたセフィロスは、手を伸ばすとザックスの額に手を当てた。
「お前、熱があるようだな」
「ないよ!!」
「馬鹿を言うな。あるだろう? 一体ソルジャー候補ってなんだ?」
「なんだって・・・」
 ザックスは辺りを見回した。
「ここは・・・」
「ここはって・・・お前、辺な病でも貰ってきたのか?」
「どこだ、ここは?」
 白いガラスケースの中、狭いその空間に、たった一つのベッド。
 そのベッドの上にいる、ザックスとセフィロス。
「お前、変だぞ?」
「変なのは、あんたの方だろう? 何で俺は、こんなところにいるんだ?」
 頭を抱え、必死に記憶を穿り返すザックス。
 自分は確かに、クラウドという名を、姿を知っている。
「どこだ、クラウド!!」
 叫び暴れるザックスを、セフィロスが押さえつける。
「それは夢だ」
「夢なんかじゃない!!」
「夢なんだ、ザックス!!」
 自由の利かない体をもどかしく思いながら、ザックスは片隅に眠る笑顔のクラウドの輪郭を、薄れさせていく。
「夢・・・」
「そうだ、夢だ・・・」
 唇を弓なりに歪ませるセフィロス。
「夢なんだ、全て・・・」
 落ちる唇を受け止めて、ザックスはぼんやりと思う。
 どれが現実なのだろうか、と――。
  
  
  
「検体1が発狂寸前ですね」
「だから、死体でなく病人を使えと言っただろう?」
「しかし、生きている人間を実験体にするのは、ちょっと・・・」
「脳が壊死する寸前だったから、記憶が混乱して大変だ。しかも、検体1は過去を思い出しつつあるな」
「しかし、偶然ですよね? もう一体の検体2ですけど、あれの名が、クラウド=ストライフというのですよ?」
「ミッドガル周辺の遺体をかき集めて、一体宝条博士は何をしようって言うんだろうなぁ?」
「英雄セフィロスの再生さ」
 白いガラスケースの横、透明なガラスケースに眠る、もう一つの死体。
 金の髪の青年は、微笑んでいた。
END

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