Buddy

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「っちい…」

何だか熱い気がして、体に覆い被さっていた毛布を足でザクッと払い去る。

そうして毛布が完全に体から剥がれると、少しは寝苦しさが緩和されたのか、レノは引き続き寝に入ろうとした。

が。

ジリリリリリ…!

「っせえ…!」

―――――途端に枕元の目覚まし時計がけたたましく鳴ったりする。

正にウザイの一言に尽きる。

仰向けに寝たままで右腕をガッと頭上に上げたレノは、そのまま手探りで時計を見付け出すと、派手にガンと目覚ましスイッチをオフにした。これでOK、平和に寝れる。

……と思ったが。

隣でガサゴソやられ始めるとさすがにそうもいかなくなるわけで、結局レノは一時的に目を開くことになった。非常に不本意だが仕方ない。

「何だ、もう仕事か?」

「ああ」

一つベットの中はあまりにも狭苦しかったが、ともかく隣で寝ていたルードがそんなふうに起き上がって、少しばかりスペースが広がる。ただそれは、ちょっとばかり熱が放出される感じがして先程とは正反対にうすら寒い感覚をレノに与えた。

「ちょっと早いんじゃないか?まだ余裕あるじゃん」

目を瞑ったまま時計を止めた割りにそんなことを言ったレノは、まあおおよそこのくらいだろうという時間を口にする。それはピタリと合っていたから、ルードは特にそれに何も介さずに、ただ支度をするからなどと言った。

それから、まだベットの中でうつらうつらしているレノに向かって言う。

「そういえばお前も出かけるとか言ってなかったか?」

「あーそうそう、でも今は無理。眠すぎ」

「…そうか、まあオフなんだ。寝てろ」

「了ー解」

そう言ったきりレノはまたうつらうつらと眠り始める。

それは深い眠りというわけではなく、どちらかというと半分寝ているという状態だった。だから半分は起きている状態。

しかしそんなレノがもう一度ルードに話し掛けるに至った時、既にルードは出かけた後のようで返事が無かった。

「何だ、もう出たのか。早いったら……」

ふう、そう息をついてそう漏らしたレノは、一つ眠たげな欠伸をすると、再度寝に入ることにした。

「…こりゃ精子不足だな……」

そんな訳の分からない事を呟きながら。

 

 

 

眠ること数時間。起床したのは午後二時の事だった。

出かけるつもりがこの時間とくれば、また何ともいえず微妙である。出かけられないわけはないが、出かけるにしてはちと遅い気もする。

「……寝すぎか」

ともかく起きるがいなやそう思ってレノはむくりと立ち上がると、昨日から何も変化無い……というより昨日より最悪になった髪をくしゃくしゃとやった。

「一人で裸ってのもな……」

何となく自分の体を見遣ってみるとそこには昨日脱いだままの状態の体があり、さすがに何かしらは着込もうと思う。いくら誰もいないとはいえ風邪をひかないとも限らない。

そうしてレノは取り敢えずズボンを穿くと、上半身には軽くシャツを羽織る。ボタンをはめるのは面倒だったから正に着流しという状態だ。

レノはそこまで着込むと、取り敢えず昨日脱ぎ捨てたまま放置されていた服を床から拾い上げ、廊下に面した場所に位置するバスルームへと足を運んだ。

バスルーム脇には洗面台と洗濯機が置いてある。

悲しい男の一人暮らしとしてはこいつもかなり活用されているわけだが、何故だかこの洗濯機を回すのはいつもレノだった。

即ち……

「ったく!回せよな少しはって」

ルードはサボっているらしい。しかしまあそれも分からないでもない。

何故ってその洗濯機の中身の殆どはレノの物である。……誰の家なんだ、誰の。

「はいはい、スタート、っと」

レノは電源ボタンを押すと、その後続けて洗濯の開始ボタンを押した。スイッチ一個でラクラク洗濯、まあこんな調子ならばそれほど文句は無いだろうが。

そうしてバスルームから離れると、五分くらいが経過していた。

本来出かけるはずだったレノは時計をチラと見遣った後、少し考えるようにすると、思い出したように暗いキッチンに向かう。そこで手際よく簡易的なホットドックなどを作ると、それをかじりながらベット脇へと戻る。そして床に座り込むと丁度ベットを背もたれにするようにして胡坐などをかいた。

で。

「さて…やりますか」

呟いたレノが起こした行動といえば、まずはベットの下に手を伸ばす事。

伸ばした手が視界に戻ってきた時そこにはノートパソコンの姿があり、レノはそれを見るなりアダプタをさっとコンセントを差し込んだ。そうして電源をオンにすると、ウィーンと起動音を始めたそいつを胡坐の上にセットする。

で、ホットドックをまた一かじり。

「頼むぞ」

 

 

 

ピロン、そう音がしてツォンはパソコンの方を振り返った。

どうやらメールが来たらしく、可愛らしくもお知らせ機能がそれを伝えてきたらしい。

ふっと時計を見やると午後五時で、何かしらの連絡が来るには少し遅いといった具合の時間である。

「何だ?」

ツォンがそう思ってメールをチェックすると、そこにはどうやら見覚えのある文面があった。

「おい、ルード」

文面から目を離して隣にいたルードに話し掛けたツォンは、これを見ろと言わんばかりのジェスチャーをする。それだからルードは眉を顰めつつもそれを覗き込んだのだが、そうした瞬間思わず咳き込んでしまった。

何しろそこに見えたのは…。

「……だそうだ」

「……」

「で、今夜の夕飯は?」

「…ツォンさん、勘弁してくれ」

いかにも素っ頓狂なそんな会話が発生したのは勿論の事そのメールの所為である。

そのメールに何が書いてあったかといえば―――まさに夕飯。

 

【相棒へ。

今日の夕飯どーする?俺の希望はピザ。かちかちクラスト生地で電流みたいにビリッて効く高めのやつな。スパイスたっぷり、でもってデカイスパイスも一つ、注文は19:00な。どう??】

 

――――――意味不明である。

ツォンは苦笑してルードを見遣ると、おかしな相棒を持ったな、などと慰めにもならない言葉を放った。

それはいかにも茶化した様子で思わずルードはムッとしてしまう。

別に好きで相棒をやってるわけじゃない。

むしろレノの方が勝手にそう認識しているだけだ。

そう言おうとしたが、ツォンの口から思わぬ言葉が聞こえてルードは閉口してしまった。

「まあ良かったじゃないか。あいつが相棒で」

「…何でそんなことを」

そう聞いたルードに、ツォンは少しだけ笑った。

 

 

 

結局退勤後に寄り道をすることにしたルードは、マーケットで一リットルのミネラルウォータを購入した。誰かさんが今夜の夕飯はピザが良いだとか言うから用意周到にもそんなものを買い込んだのだ。

あの相棒はピザなんていう油こいものを食べる時には必ずミネラルウォータを要求する。いつもなら酒を水変わりにしているくせにそんな時ばかり健康マニアよろしくそんなものを要求するものだから、ルードは生まれて始めてそんな物を買ったものである。

ミッドガルは外見上からしても水は綺麗ではない。だが水道水は高原の方からわざわざ引いているという贅沢さだから飲み水として支障はないという具合。まあスラムの一部地域は例外だと聞いたことがあるが、世の中の大御所が一堂に会するこのミッドガルでは当然の配備ともいえるだろう。

まあそれはともかくとして、いつもミネラルウォータを買って来いだとか言われるルードにとってこれは小さな問題だった。

一リットルミネラルウォータを手にして家路につく。

距離はさして遠くはない。

そうする中、ルードはあの相棒のことを少し考えていた。

結構長いつきあいだとは思う。仲は良いほうだと思う。……しかも少し一線を越してしまったとも―――思っている。

いくらなんでもやりすぎだ、そのくらいのことは思っているはずなのに俄然ズルズルとやりすぎな関係にあるのは何故だろうか。

そう思ってルードは手にもったミネラルウォータをチラと見遣った。

そもそもこのミネラルウォータこそおかしい。何故あいつのために用意周到にもそんなものを買い込んでいるのか、しかも何で夕飯まで一緒に食べねばならないのか、これがもし外食や飲みの後ならまだしも、レノは今日はオフなのだ。なにも夜までルードの自宅にいる必要はない。

それが何故だか当然のように居座り、挙げ句の果てには洗濯機まで勝手に回す始末……まったくおかしいとしか言い様がない。

それでもそんな訳の分からない相棒関係を続けている事は、多分一番訳の分からない事なんだろうが。

うつらとそんなことをサングラスの中で考え込んでいたルードは、ふと道の脇から流れ込んできた音に足を止めた。

「?」

……ガガガガガ……

そうキレの悪い音が聞こえる。

その後、くぐもったような低い声。

……現在ミッドガルでは治安維持活動として―――……

「…放送か」

チラと音の方を見遣ると、そこにはテレビがあった。

どうやら何かの店が、何の為にだか店先にテレビを設置しているらしい。そのテレビから流れるのは紛れもなく神羅の放送である。

神羅の放送は治安維持活動についてを切々と語っており、それはいかにも神羅が素晴らしいとの事を述べているふうだった。

―――――――そんな御託ばかり並べて。

そう心の中で舌打ちしたルードは、一瞬その放送に歩を止めたものの、すぐにスッとその場を離れようとする。

…が。

何故だかそういうわけにはいかなくなってしまったのは、そこに男が通りかかったからだった。といっても別段その男が問題だったとかヤバかったとか、そういった事実はない。

単にその男がふと愚痴らしき言葉を口にして、それがルードをハッとさせたから。

その男が言ったのは社会批判たる言葉だった。

しかしその社会とは今や神羅そのもの、となればそれは神羅批判である。

男は漏らした、テレビから流れ込む真面目極まりないアナウンサーの言葉に、こう。

「はん、なにが治安維持だ。腐ったピザでしかないくせによ」

―――――――ああ、そういえば。

そういえばそんな言葉で表現されることもあったか、このミットガルは。

一瞬の内に思ったのはそんな事で、よくもまあそんな表現を思いついたものだなどと思う。しかし次の瞬間にはそう感心している余裕も無く誰かさんの書いてきた文字が浮かんだ。

それは確か…今夜の夕食で。

「ピザ…?」

そう呟くと同時に、はっ、とする。

あいつは、何て書いてきた?

あんなメールを、何であいつはわざわざ送ってきた?

あれは―――――…。

「…っ」

ルードは舌打ちすると、途端に走り出した。

そうしながらも時計を見やると、時間はどうやら六時五十分であるらしい。

「注文は……七時、か」

そう呟くと、ルードはもう一度舌打ちをした。

まったぐとんだ相棒を持った。

そう思ったがルードは走る事を止めたりはせず、ただひたすらにある場所に向かう。

荷物になったミネラルウォータを揺らしながら。

 

 

 

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