Mirror Cool // forever...

 

 

 

忠実に映し出すもの――――――それはミラーと呼ばれ、

何度も何度も何度も、繰り返されてきた。

 

ああ、また一人。

 

誰かが狂い、また誰かを狂わす。

 

自我を失くし、べっとりと貼り付けられた表層で。

 

 

 

 

 

間違った冷静さの中で。

 

 

 

 

 

旧兵舎のことがようやく分かり始めたクラウドは、つい先日全壊したシャワー室の鏡が修理されたのを確認した後に、ザックスに連絡を取った。

クラウドとの関係を切ろうと決意していたザックスは何度かのクラウドの誘いには断りを入れてきたが、それがあまりにも続くのでその時は仕方なくクラウドに応じてやった。それに、クラウドがどうしてそうしつこく誘ってくるのかが、ザックスには分かっていたのだ。

単純に…好意だというのも知っている。

しかしそういうものに甘んじるのはザックス自身とても嫌気のさすもので、だからそういう意味合いとしてそれを受け入れることは拒否しなくてはならない。が、上下関係から始まった現状の中で、そこまでクラウドが自ら行動を起こすのは、ひとえにザックスとの関係が成り立っていたからだという事実があった。

それは一見して矛盾しているようにも思えるが、もしあのパーティにクラウドが参加していなければ、ザックスと知り合うこともなく関係すら無かったということになる。そうであれば勿論、執着というものも生まれなかっただろう。

だからこれは、その関係があったからこそ始まってしまった狂気なのである。

遊びにつきあっただけだったのに―――そうザックスは思っていたが、それでも始まってしまったものは仕方無い。仕方無いし、今更修正をかけようという気もない。

責任も何も無い。

あの関係は、その時その場所で起こるものであって、ザックスにとっては一人の時間にまで束縛されるようなものではなかったから。例えクラウドがそれと正反対だとしても。

最早、自分のミラーとなってしまったクラウドを、この先どうするか―――…一瞬そんなことも考えたが、それもどうでも良いという結論に至った。

責任も何も無い、どうでも良い。

そこには目的も何も無い、意味など無い。

だから適当にクラウドの誘いに付き合えば、それで良い。そんなふうに思って出向いたザックスは、正反対に目を見開くような事態に遭遇することとなった。

それは、待ち合わせた旧兵舎のシャワー室のドアノブを捻りドアを開けた、その瞬間のこと。

 

「ザックス、待ってたよ」

 

そう言って笑った顔は――――――恐ろしいほど、柔らかい。

 

「クラウド…」

 

呟いたその部屋には、一面の鏡。

 

ザックスは、一瞬にして回り始める眩暈を止めることができなかった。心に、頭に、広がり侵食する記憶。

ほら、見てみろザックス。これが残酷な殺戮者の顔だ

嫌な声が、頭に反響する。見回すと、全てに自分の顔が映し出されていた。それは冷静そのものの、自分。

「クラウド…お前は」

衝動が止められそうになかったが、それでも冷静さを保ちながらもザックスがそう呟くと、シャワー室の中央の床に座り込んでいたクラウドは、ふふ、と笑いながら

「鏡、好きでしょう?」

そんな事を口にした。

「全部壊しちゃうほど、好きなんでしょう?」

くすくす、と笑いを漏らしながら、クラウドは一面の鏡を愛しそうに眺めている。その視線は一通りの鏡に巡らされた後に、やっとザックスへと戻った。

にっこりと笑ったその顔は、本心なのか、表層なのか――――。

そんなクラウドから目を離せずにいたザックスは、無意識の内に拳を震わせていた。それはクラウドに対する感情ではなく、心の奥底から沸き上がる感情である。

鏡を見ると、起こる感情。

それは怒りのようでもあり、悲しみのようでもあり、憎しみのようでもある。しかし割れた鏡にいつも映っていた自分の顔は冷静で、そう考えるとそれはとても矛盾したもののような気がする。そうした後、笑うことすらあることを考えると尚更そう思う。

そして、巡る記憶。

かつて目的を持ち生きていた頃の、それは記憶。

「ザックス…俺はいつまでもザックスの側にいるよ。だってザックスは俺を生かした。そしてザックスは―――俺に“目的”を与えた張本人だからね」

「……目的か」

それがどのような目的なのかは分かっている。

分かっているが、それはザックスには不必要なものである。例えその心意気を認めたとしても、感情を持って共有することはできない。

しかし。

「でもね、目的を果たす為には、まだ邪魔なものがあるんだ」

無邪気にそう言うクラウドに、ザックスは首を傾げる。

もう既にザックスは、クラウド以外の人間と性的な関係を持つのはやめていたし、同期のソルジャー達の遊びに付き合うこともなかった。だからもう、クラウドにとっての敵はどこにもいないはずである。

それなのに、一体これ以上何が“邪魔”だというのだろうか――――ザックスには、壊れたクラウドの真意は良く分からない。とはいえ、それもザックスにとっては理解しようと思うような重要性は無かったが。

「俺はザックスの言うこと、何でも聞くよ?…だって俺はザックスのミラーになるんだ。だけどね、その代わり―――…」

そこで一旦言葉を切ったクラウドは、もう一度にっこりと笑うと、ゆっくりとこう告げた。

 

「“本当のザックス”は、俺の言うこと何でも聞いてくれなくちゃ、ね?」

 

 

 

冷静な仮面の下に隠した「真実」に―――――――――侵食を。

 

 

 

いつも冷静で何にも興味の無い人。

だけど本当は、どこかに真実を置き忘れただけの話。

だったら、その真実を取り返してあげる。

ね?

感情だけで生きられる一瞬の空間を作ってあげる。

そうしたら……

 

出逢える。

 

 

 

恐れられ、トップの座に座るその人のミラーになる……それはつまり、その人と同様の存在になること。しかし違うことが一つあった。

それは、そのような存在になる対象の相違。

誰しもを従えるのではなく、その人だけを従える。

 

その人だけが、欲しい――――――。

 

 

 

ガシャン…

 

 

 

割れた鏡の破片の中で、クラウドは笑っていた。

 

目的への満足は、果てしなく遠い場所にある。

邪魔者は消えない、いつまでも消えない。

だからいつまでも支配され、支配し続ける。

所有物であり、所有者になる。

鏡になる。

瓜二つの、狂った心になる。

 

 

ザックスは数枚とある鏡を割り、手にこびりついた血をじっと見つめていた。

 

目的への満足は、果てしなく遠い昔に消失してしまった。

邪魔者は消してしまった、もう既に自分の手で。

だからその為にこうして今、鏡を割る。自分を映し出す、憎憎しい鏡を。

目的はない…だから所有物も所有者も関係などない。

けれど今目の前にいるのは、自分の“鏡”。

同じように何かを失った、瓜二つの狂った心。

 

 

このガラクタの見る夢は、果てしなく冷静。

その言葉が示す通り。

柔らかな表情が示す通り。

 

 

数百に分断された自分の破片を見つめる側で、声はそっと部屋に響いた。

 

そして、その後に絡むようなねっとりとした口付け。

 

ほんの小さなパーティ。

 

それは――――――関係の確立。

 

 

 

揺れる二つの影は、互いに笑みを漏らしていた。

 

 

 

 

 

「嫌な鏡は、壊してしまおう――――――永久に」

 

 

 

 

 

記憶が朽ち果てる、その時まで。

 

 

 

Mirror Cool / END

 

 

 

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