第二倣者

 
 
 
「あの人に取り入ろうってったって無駄だぜ」
 そう誰かが俺に教えてくれた。
 あの崇高なる英雄のお気に入りになるのはそう容易じゃない。そんなの俺だって知ってる。いいや、俺だけじゃなく誰だって知ってるだろう、そんなことは。
 そしてもう一つ知ってることがある。それもまた誰だって知ってることだ。
 まんまとあの人のお気に入りになった奴は―――――――――消える。
 それはもう伝説並みの話、誰だって承知。
 あのセフィロスのお気に入りになったんだと噂される人物は決まってその後に姿をくらませる。神羅の中からも除籍されているし、外の世界でもその後そいつらの消息を知る者は無いって話だ。
 つまりあの人のお気に入りになるには、命がけで臨まなきゃならない。
 けどそんな命の危険を冒してまで何であの人のお気に入りにならなきゃいけないのか、そう思うと多分マトモな奴は首を傾げることだろう。何せお気に入りの座さえ狙わなきゃ命が危ないことなんて一つも無いんだ。そう、任務を覗けばね。
 それでも俺を含む数人がそのお気に入りの座を望むのには理由があった。とはいってもその理由なんて曖昧なものだ。だから説明しろってったって中々難しい。例え頑張って言葉を繋ぎ合わせたとしても理解して貰えるかどうかだって妖しいほどのものなんだ。
 けどそこを敢えて言うなら―――――――――多分「運だめし」だ。
 俺達はあの人のお気に入りの座を狙って、自分自身を試してるんだ。
 こういうの、何て言うんだろうね?
 もしかしたらギャンブルと一緒かもしれない。
 死と隣り合わせ、それでも上手くいけば自分は勝利を手に入れられる。その勝利が何かっていえば「今迄誰も手にしたことのない、お気に入りの座の"確実な継続"」ってやつだ。誰一人叶わなかったものをこの手に入れられるかもしれないっていう興奮…それを俺達は手にしてみたいだけ。それを夢見るだけ。
 あの崇高なる英雄に魅力がないわけじゃないし、むしろあの人は魅力の塊みたいなもんだ。その人を手に入れ、そしてそのリスクと向かい合わせの勝利をも手に入れる事ができたなら―――――多分それは、最高の優越だろう。
 
 
 
 ギャンブルの世界に出し抜きなんて、当然の話だ。
 俺は、同士である奴らを出し抜いてその人に近付いた。勿論、英雄にってことだ。
 セフィロスは意外とあっさりしてた。
 一般兵士の武器を使って話しかけた俺に、他愛も無く返答してくる。
『あの…セフィロスさん、俺…』
 しどろもどろ、呂律も回らない――――――そんな調子の演出をする。
 その演出こそが一般兵の武器ってやつだよ。まさか初対面でその上英雄でもあるその人に最初っから堂々と臨むなんてバカなコトはしない。そういうコトをしたら、多分セフィロスは俺を無視するだろうから。
 そうさ、あの人のお気に入りになれるのは格下も格下…つまり俺らみたいな一般兵士なのさ。だからソルジャーの栄誉を手にいれた奴なんかはソレ自体がもうアウト。残念だったねって感じだ。
 
 俺はセフィロスに取り入ることに成功した。
 どっかの親切な人が俺に教えてくれたことなんか覆してやったんだ。
 但し、完璧なお気に入りになるには犠牲が必要…それは至って単純だけど、体、って犠牲だ。そもそもお気に入りってのはオモチャみたいなものだから、それは当然分かってる。分かってて俺はやってる。
 セフィロスの前で服を剥ぎ、セフィロスのにひたすらしゃぶりつく。
 それを憮然な面持ちで見てるセフィロスが動き出すのはもう最後の方の話だ。
 ゆっくり腰を上げて、俺に突っ込んでくるだけ。
 俺は顔をしかめてそれを受ければそれで良い。
 たったそんだけの、お気に入りへの犠牲。
 
 セフィロスは少し経つと、俺をお気に入りと認めた。
 それが分かったとき、俺は優越を感じた。それは当然。
 だけど俺が本当の勝者になるには、これを継続しなくちゃならない。今までのお気に入りがすぐに姿を消してしまったみたいに俺もそうなるなんてゴメン。
 俺は勝者になる。
 誰も手にしたことのないものを、崇高なる英雄を踏み台にして、手に入れてやるんだ。
 だから俺はその優越と勝利の為の運試しに、身体を犠牲にした。
 擦り切れるほど。
 血が滲んで、アソコが悲鳴をあげるほど。
 連続的に繰り返される痛みだって耐えてやる。
 もうカラカラ、精液だって枯れ果ててるのに、それでも俺は。
 
 
 
 俺がセフィロスのお気に入りになってから、ザックスが俺に言った。
「なあ、もうやめろよ」
 やめろ?
 ―――――――バカだね、ザックス。
 ザックスには分からないんだ、この気持ちは。
 俺はそう鼻で笑って、仕方なく「どうして?」とだけは聞いてやった。
 ザックスは優しい人だから、あんまりにも擦り切れてる俺の体に眉を顰めながらもこう忠告してくれる。
「あの人のお気に入りなんか、やめちまえ」
「何で?」
 ―――――――バカだね、ザックス。
 ザックスには俺の気持ちなんか分からないでしょう?
「あの人はお前を求めてるんじゃないんだぞ、分かってんのかよ。大体、あの人に関わったら……後が無い」
「だから?」
 だからどうしたって言うんだよ。俺だってそんなの知ってる、呆れるくらいに聞いた話だ。それでも俺は勝者になる為に犠牲なんか厭わない。それをザックスは、ちっとも分かってやしないんだ。
 ザックスは俺のココロなんかちっとも知らずに、真顔そのものでこう言った。
「あの人は、お前を好きなわけじゃ、ない」
「知ってるよ」
「じゃあ何で?何でそこまでして、あの人に取り入ろうってんだよ」
「…分からない?」
 
 ―――――――それはね、勝者になるためだよ。
 
 クスリ
 俺はそう笑ってザックスを見てた。
 ザックスは眉を顰めて、ただ俺を見てた。
「――――もう一度言う。あの人は、お前なんか見ちゃいないぜ」
「だから。知ってるよ、そんなこと」
 俺はそんなものを望んでるんじゃない。
 俺はあの人に愛されたいわけじゃない。
 あの人のお気に入りになりたいだけなんだ。
 そのお気に入りになる為にちょっと犠牲が必要だったってだけで、その犠牲行為が世の中では愛だとか何とか言われてるだけの話さ。どっちが正しいなんて、答えは無いでしょう?
「お前…死ぬぞ」
「死なないよ、俺は」
「いや、無理だ。お前は敵わない。あの人の中にすんでる…ある人に、敵いやしない」
「ある人?」
 俺は首を傾げた。何のことだろう。
 大した問題じゃないと思ったけど、俺はそのことをザックスに聞いてみた。ある人というのは誰なのか、って。
 だけどザックスは、口をギュッと結んだままで答えはくれなかった。
 
 
 
 ある人。
 その誰かも知らない人の存在を実感したのはそれからかなり経った後のことだった。
 相変わらずセフィロスのお気に入りの座を継続する為に俺は身体を犠牲にしていて、そういうにもいい加減慣れてきた頃。その頃には既に俺は、過去の誰よりも長い期間セフィロスのお気に入りの座を確保していたから、かつての同士だった奴らは俺を忌み嫌ってた。
 お前ごときがセフィロスのお気に入りか、そう嘲笑された。
 だけど最後に笑うのはあいつらじゃない。
 最後に笑うのは俺だ。
 だって何を言われようが嫌われようが、事実その座を手にしているのはこの俺なんだ。誰にも負けやしない、誰だって俺には敵いやしない。
 俺は勝者になるんだ。誰も手に入れたことのない勝者に。
 
 そうして俺がその座に胡坐をかいてたとき、セフィロスはいつもの犠牲行為の中でこう言った。それは背後を掘られながらの言葉だったし、俺は相変わらずの痛みに顔を歪めていたから何だか現実味が無かったけど、俺は確かに聞いたんだ。
「お前らは、何がそんなに楽しいのだろうな」
 腰の動きが激しすぎて、それが何を指した言葉なのかは良く分からなかった。
「お前も、誰もかも一緒だ。誰しも俺に気に入られようと必死にもがく。馬鹿らしいな」
 そんなもので何が得られると?、そうセフィロスが言ったのが聞こえる。
 俺はその言葉を耳にして、心の中で笑った。
 違う、違うんだよセフィロス。
 貴方だって分かってないんだ。
 俺が欲しいのは貴方なんかじゃない、貴方を踏み台にした勝利だよ。優越なんだよ。
 だけど俺は貞淑に喘ぐだけして、その言葉を聞いてない振りをしてた。
 だからセフィロスの言葉は独り言のようになって宙を舞う。
 
"お前らは皆、一緒だ。この出来損ないのクズめ"
"同じ顔をして同じように腰を振って。お前らは皆、二番煎じだ"
"誰かの真似をしなくては自分さえも保てない、この無能のクソ共"
"結局お前らは、生きていても意味がない"
"何せ、二番煎じしか能が無いのだからな"
 
「貴様は俺を不快にさせる。死んで―――――――償え」
 
 
 
 意識は、朦朧としてた。
 
 
 
 俺は、やっぱり勝者にはなれなかったのか、と思った。
 不思議と、殺されるかもしれないと思った瞬間は恐くなかった。
 ただ恐いと思ったのは、結局俺は勝者になれないんだという事実だけで。
 セフィロスに殺されようと、体が滅びようと、俺は恐くなんてなかった。
 恐いのは……
 
 敗者になることだけ、だった。
 
 
 
 意識は、朦朧としてた。
 
 ――――――――ねえ、俺は……死んだの?
 
 
 
 
 
 気づいたとき、側にはザックスがいた。
 ザックスがいて、そのザックスはセフィロスを胸に抱えてた。
 それは俺にとって不思議そのものの光景だった。だってセフィロスのお気に入りなんか狙う気もなくて、狙う資格さえ無いザックスが、セフィロスを抱えているなんて考えられなかったから。
 俺は不様に裸のままでそんなザックスを見てた。
「だから、やめろって言ったんだ」
 ザックスはそんなことを言うと、胸に抱えたセフィロスを見やって、それからそっと眼を閉じる。俺はその行為をじっと見詰めていた。
「クラウド、お前は何が望みでこの人に近付いたんだ」
 いつかも聞いたその質問をまた投げかけてきたザックスに俺は、今度はちゃんと答えを出してやる。俺にとってあまりにも簡単だったその答えを。
「勝者になりたかったから」
「勝者?」
「そう。セフィロスのお気に入りになった奴は、今まで誰一人生きてない。だけど俺は生き抜いて、誰も手にしたことのない地位を手に入れてやるって決めたんだ。勝者になりたかったから」
「――――――ふうん」
 ザックスは俺の答えにそんなふうに返す。まるでどうでも良いみたいな返事だ。自分から聞いたくせに、俺はそう思って少しムッとする。
 だけど、ザックスは俺に反論させることもなく、こう語りだした。
「お前はな、クラウド。そう思った瞬間から、負けだ」
「―――――え?」
 何を言ってるんだ?
 やっぱりザックスは分かってない。
「誰かを踏み台にしなきゃ勝者にはなれないか?誰も手に掴んだことのないものは、こんな場所にしか見つからなかったか?…そうじゃねえだろ」
「何が言いたいんだよ」
 俺はそんなザックスの態度が気にくわなくて、段々と顔が険しくなってった。俺がここまで頑張って手にいれたものをバカにするなんて、絶対許せない。
 俺はずっと望んでたんだ。
 勝者になりたいと思ってたんだ。
 その為には、他の同士を出し抜き裏切ることも、セフィロスを踏み台にすることも、大したことじゃない。俺の目的のための尊い犠牲でしかないのに。
「優越が欲しいなら、この人に身体を売る必要なんて無い。どうしてお前はそれをしたんだ」
「そんなの簡単だ。それが方法だからだよ」
「方法?それはお前が考えた方法じゃないだろ。過去、誰かがやった方法を真似ただけじゃないか。お前が真似しただけじゃないか。誰かの二番煎じで勝者になって、それでもお前は嬉しいか?」
「嬉しいよ?」
「―――――」
 俺は笑ってやった。
 そうさ、誰かの真似で手にいれた地位だって、それは最後には俺のものだ。過去そうして初めてセフィロスに近付いた奴は今はもう死んだ。結局ソイツは敗者になるしか能のない奴だったんだから、ソイツの方法を真似てやっただけでも喜べよって俺は思う。
 価値の無いやつは、勝者にはなれないよ。
 二番煎じだって良い。
 その一番目の誰かだって、出し抜いてやればそれで良い話じゃないか。
 
「――――――救いようがないな」
 
 ザックスはそんなことを言うと、胸の中のセフィロスをそっと床に置いて―――――
 ……それから。
 
「悪いけどな。お前たちみたいな模倣者は―――――敵わないぜ、"俺"には絶対」
 
 俺の眼の中には鮮血が舞った。
 それを見た瞬間、俺は気付いた。
 今迄セフィロスのお気に入りだった奴らが、何故死んだのか…その理由を。
 
 セフィロスの中に住んでる「ある人」―――――その正体は………。
 
 
 
 俺の耳に、ザックスの声が聞こえた。
"お前ら模倣者は結局、体を売ることでしか勝者になれないと思ってる"、と。
"模倣しかできないから、本物がないから、だからそういう犠牲が必要なんだ"、と。
 そして最後に、こう聞こえた。
 
"所詮、お前らは敗者だ"
 
 
 
 
 
 朦朧とする中、俺はそれでも笑ってた。
 ねえ、それでも腐ったこの世は残ってるんだよ。
 模倣者の俺が死んだって、誰かがまた俺の真似をするんだ。俺が誰かのやり方を真似したようにさ。それはグルグルグルグル続いてくんだよ。
 その度にセフィロスは、勝者になる為の踏み台になる。
 その度にザックスは、そうして制裁を加える。
 模倣者されるばかりのオリジナル、本物――――そんなザックスが羨ましいよ。だって最初からザックスは勝者だから。ザックスという勝者がいる限り、模倣し続ける俺達は敗者でしかない。最初っから敗者でしかないんだ。
 
 真似て真似て真似て、嘘ばっかりの満足感に心酔。
 自分らしさ?
 そんなものは最初っから持ち合わせてないさ。
 だって腐ったこの世はそんなもの、俺に与えてくれなかった。
 模倣する術しか、俺は与えて貰ってないのさ。
 
 グルグルグルグルと、今日も「自分」を振りかざすニセモノが徘徊してる。
 
 不様な二番煎じ。
 見よう見まねの模倣者。
 生まれた時から押されていた敗者の烙印。
 
 
 
 
 
 腐ったこの世から消えたら、勝者になれるかな――――――――?
 
 
 
 
 END

時間軸だけで決まる第二模倣者
 

 

 

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