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フィガロの王妃 ------------------------------------------
今日も世界は安泰、勿論フィガロも平和そのもの。 世の中の事件といったら専ら小物で、あそこの息子がパンを盗んだとか旦那がチョコボに振り落とされて怪我しただとかそんなものばかりである。 フィガロ王国国王エドガーは、そんな世間の情勢を見ながら微笑ましいな、なんて思って日々過ごしていた。 いや、勿論それらの事件は当人らにとっては大事なのであって、世界平和の枠の中ではどんなに小さいとはいえ無視できるようなものではない。だからエドガーは国民にとっては大事であるその小事件に、それでも一つ一つ耳を傾けては親身になっていた。 それでも尚、そういう一つ一つのことに耳を傾けられる現状は微笑ましい以外の何物でも無かった。
そんな微笑ましいある日の午後のこと。 エドガーは例によって事件を引き起こしたらしい一国民と顔を合わせたりしていた。 王の間で、さて今度はどんな事件が起きたのか、なんてことを考えながら座って待機している。そこへやってきたのは何て事無い、いつも話をしている少女だった。 しかもこの少女はエドガー得意の口説きも受けたことがあるくらいだから、これは何だか興味深い。 さて、彼女は一体何をしでかしたのか? そう思いながらエドガーが「やあ」なんて言って迎えると、彼女は途端にこう言い出した。 「エドガー様!ご結婚なさるって本当ですかっ!?」 「―――ん?」 エドガーの頭にはハテナマークが飛びかう。 「だから、ご結婚なさるって…」 「誰が?」 「エドガー様が」 「誰と?」 「それを聞きにきたんですっ」 「…???」 エドガーはにっこり微笑んだままピキンと固まった。 何だその話は? 聞いたこともないし、勿論公言したこともない。 「…悪いが。そこ、詳しく教えてくれるか?」 にっこり微笑んだエドガーは、ワケがわからないながらもそう少女に問う。しかしもっとワケが分からなかったのは少女の方である。 何しろそんな話を聞いたからこそ急いで此処にやってきたというのに、当の本人が詳細が知りたいなどと言うのだ。それはワケが分からないだろう。 けれど、にっこりスマイルのエドガーにつられて少女は、疑問を言葉にするまでもなく事の経緯を話し出したのだった。
「全く…誰だそんなことを言った奴は」 少女の話を聞くなりエドガーが放ったのはそんな一言。 怒りというより呆れといった表情である。 話によると、フィガロ王国国王の結婚というのは風の便りというか噂話としていつからか蔓延していたものらしく、フィガロ城下町にそれが辿りついたのは正に今朝のことであったらしい。 少女を始めとするエドガー支持の国民はその噂を耳にした当初は「まさか」と笑い飛ばして耳こそ貸さなかったものだが、しかしあんまりにもその噂が大々的になっているものだから、ひょっとして、という気持ちになったのである。 確かにエドガーももう良い年齢なのだし、それも無い話ではないだろう、なんて思い始めたある程度の年かさの国民は、それだったらば、と段々と祝福ムードになっていた。 また若い世代の国民達、特に女の子に関してはなまじ普段からエドガーの口説き文句を受けていただけにそれは無いと譲らなかったものだが、親やら何やらに色々言われる内にそんなものかと思うようになっていた。 勿論、国民思いのエドガーの門出を祝福しない国民などはいない。 だから本来その話が噂であろうと持ち上がった時点で、喜びこそすれ疑うなど国民としてあるまじき姿であったろう。 しかしそこはフィガロのこと、普通の国とはちょっと違う。 エドガー支持者がそれらを受け入れるのに時間がかかったのもその国民性故だろう。 あのエドガーがどこかの女性に本気にでもなったらそれこそ今までのエドガー節口説きも無くなってしまうだろうし、その地位にあるまじき親近感を有していたエドガーがとうとうその地位通りに遠い国の象徴的存在と納まってしまうのが何だか受け入れがたかったのである。 中には口説き文句に半分期待して、将来うちの娘は妃になるんだ、なんて密かに思っていた人々もいた。 そういう経緯で余すとこなく充満した噂は、こうして一部納得をしたくない国民をエドガーの元に走らせた。勿論、真実を問いただす為に。 因みに少女からこの話をきく間、謁見の申し出は後を経たず、エドガーはそれらを丁寧に断った次第である。 「どうやら噂は蔓延しすぎているようだな」 ぼそりとそう呟いたエドガーに、少女は首を傾げる。 「じゃあその話は嘘なんですか?」 「ああ、根も葉もない話だな」 エドガーは笑顔でそう否定したものだが、ふと何かを思いついて、こう訂正した。 「いや、やはり本当だな」 「エ、エドガー様っ!?」 「いやいや。つまり、こういう事だ。真実は根も葉もない噂に過ぎないが、その真実は二人だけの秘密にしておこう。どうかな?」 悪戯っぽく笑ったエドガーに、少女は俄か嬉しそうにして「はい」と答える。 そう…つまり、それが嘘八百であるという事実は、エドガーと少女だけの秘密にしようということなのだ。 こうして真実は、ある一国民とエドガーの胸にしまわれたのだった。
さてその噂だが、それは滞りなく広範囲に浸透していた。 というわけだから勿論、各地にいる各仲間の耳にもそれは入るわけである。 一番にそれを聞き付けて飛んできたのは双子の弟マッシュだった。 マッシュはエドガーの婚姻話なんか露にも聞いたことがなく、昔からのこともあったのですっかり驚いている。 とはいえ双子の兄であるエドガーの決断なれば祝わずにはいられないわけで、これはすぐにでもフィガロにと思ったのだが、その途中にロックに出くわしてしまったのは正に運のツキだった。 途上、ある宿屋での出来事である。 宿代がどうのといって騒いでる客がいるから一体何だと思ってマッシュが部屋を出てみると、そこには何と見知った顔があるではないか。 その見知った顔は、ギルの代わりにお宝をやるから、なんて交渉をしているのだが、それは宿屋の主人に受け入れてもらえず激論に至っている。最後には、このお宝の価値が分からないなんて馬鹿だなどと言う始末で、そこまできた時やっとマッシュが声をかけたという次第。 結局マッシュは二人分の宿代を負担することとあいなった。 そうして同室に身を寄せてから、久しぶりだな、なんて話が始まる。 「こんなトコで合うなんてビックリしたぜ、マッシュ」 「ロックこそ!まさか宿屋と質屋がごっちゃになってるとは思わなかった」 マッシュは天真爛漫そのものにそう言ったが、言われたロックの方はその言葉にゲッソリした。 「だあっ!俺は今!貧乏なの!」 「今も、の間違えじゃないの?」 「失礼だな、もう!とにかく俺、これからフィガロにいかなきゃならないんだよ」 「フィガロ?」 そう言われてマッシュは首を傾げたが、やがてぱっと顔を明るくすると、実は俺もなんだ、などと言う。どうやら久々の再開に加えて、二人の目的地は同じであるらしい。 しかしマッシュが確実な目的を伴ってフィガロに向かっているのに対し、ロックがフィガロに迎う理由は何だか思いつかない。 「で、ロックは何しに行くんだ?」 だからマッシュがそう聞いてみると、ロックは何やら真剣な面持ちでこう言い出した。 「実は―――――驚くなよ、マッシュ。エドガーがな…」 「うん」 「――――とうとうイカれちまったみたいなんだ」 「……は?」 何だそりゃ? マッシュは思わずぽかんと口を開けたが、当のロックは真剣そのもの。裏組織の秘密でも握ったかのような按配である。 「事の始まりはこうだ。良いか、マッシュ。あのエドガーが、あのエドガーがだぜ?とうとう独身貴族卒業だってこう言うんだよ。あのエドガーがだぜ?」 ロックはやたらめったらと、あの、の部分を強調する。 確かに強調したい気持ちも分からないでもないが、しかし仮にもエドガーはマッシュの兄である。何となくちょっぴり気に掛かる。 「え、それってつまり、兄貴が結婚するって話だろ?」 「そうなんだよマッシュ!これは一大事だ」 ロックは頭を抱えると、ああ、とうとうエドガーもイカれちまった、などと嘆き始める。ロックからすればエドガーが真面目に女性と恋愛するなんてとても信じられない事なのだろう。 がしかし、マッシュからするとどうしてロックがそこまで頭を抱えるのか理解できないといった感じだった。というのもマッシュは、いくら口説きが常のエドガーであれ、いずれそういう時が来てもおかしくはないという事をどこかで納得できていたからである。 「そんなに変かなあ…兄貴がマジになるのって」 「変!絶対変!」 ロックはそう断言すると、早いとこエドガーを正気に返らせないと、なんてブツブツ言い出す。どうやらロックはエドガーを、「口説きのエドガー」に留める為にフィガロに向かうらしい。 まあ理由は違えど、とにかく二人の目的は一致しているといえる。 だったらばじゃあ取り敢えず二人で一緒にフィガロに向かおうかという話になり、二人は一致団結、明朝二人でエドガーに会いにいこうというふうに話を纏めた。 そこまで決定したところでロックが何の気なしにこうポソリと呟く。その呟きは、呟きにしてはあまりにも意味深な言葉だった。 「セッツァー情報も馬鹿にならないよな」 「――――セッツァー…??」
フィガロ城。 その日、エドガーが二人に会ったのは午後になってからのことだった。 二人というのは他でもない、ロックとマッシュのことである。 二人はフィガロへ一直線に向かってきたのだったが、その途中で寄ったり通りすがった町や村ではもう既にエドガーの噂が蔓延しており、これにはさすがに度胆を抜かれていた。 まさか此処までとは…と。 そう思いながら来たものだからフィガロに着いた時にはすっかりその雰囲気に慣れてしまったものである。町の人がエドガー様云々と言ったって驚きもしない、むしろ、そうだよなあ、なんて同意してる。 そんな調子だったからエドガーを目の前にしてもすっかり国民と同じ按配だった。とはいえロックの場合はそんな事があるはずないと基本的に思っていたものだから、これはいよいよヤバイか、と心配が深刻になっただけだったが。…無論、勝手に。 そんな二人を迎えたエドガーはといえば、これがまた不吉なくらいににこやかだった。 ロックの深刻な心配心を助長させるが如くにエドガーが口にしたのは…。 「祝いにきてくれたのか、悪いな」 そんな言葉である。 「!!!」 ロックの顎が外れたのは言うまでもない。 まさかそんな――――――! ロックは仕切りとエドガーの顔を見て、ぱくぱくと口を金魚の如く動かした。そのぱくぱくが意味するところは勿論、やばい、医者を誰か!というものである。 そんなロックの横でマッシュは、カラリと笑って、おめでとう兄貴!だとか言っている。 エドガーはにこやかに「有難う」だとか言っていたものだが、そのにこやかな表情の中でこんなことを口にする。それはいかにも穏やかな調子だった。 「ん、あの男は一緒じゃないのかな?」 にこにこスマイルのエドガーはマッシュとロックを交互に見やる。二人は顔を見合わせ、それからエドガーを向き直った。因みにこの動作の時ですらロックの顎は外れていたが、誰もそれを直そうという優しい人はいなかったのは言うまでもない。 「あいつは一緒じゃないよ。俺とロックが会ったのだって偶然だったし」 「ほーう…」 顎が外れているロックに代わってマッシュがそう答えると、心なしかエドガーの眉間がピクリ、としたようだった。が、それにはさすがのマッシュも、金魚になっているロックも気付いてはいないようだったが。 「仲間の結婚を祝えないとは、相当情の無い奴だ」 エドガーはそんなことを言うと、その人にあるまじき嫌な笑みを見せた。何だか嫌な予感…。 しかしどちらかというといつも皆で仲良くいたわけだから、マッシュもロックも、エドガーがそんなふうな笑みを漏らすのが不思議で仕方ない。だからなのか何なのか、とにかくそのセッツァーのことについて二人は、こんなフォロー混じりの言葉を漏らした。 「セッツァーのことだからまたどっかフラフラしてんだよ」 「そうそう。そのウチ来るだろ」 そう口々に言う二人にエドガーは特に何も言わない。 ハナから信じていないかのようである。 実際それはやや正しく、エドガーはどんなことを言われようと心を穏便にすることなどできなかった。というかできようはずも無かったのである。 何しろ…そう。 セッツァーとはちょっとした確執があったから。
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