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地下の牢屋の一つに入れられたロックは、何もかもに落胆していた。 この状況もシャレにならない。 此処から抜け出そうかと考えはしたが、しかしそれは一般の城より遥かにシッカリとした造りをしていて、逃亡するにも何日かを要するだろうと思われた。 「…ロクなことが無いな…まったく」 はあ、とため息をまた一つつくと、何者かの気配が近付いてきたのを察知して素早く身構えた。 といっても牢屋の中である。身構えても意味は無かった。 「腹具合はどうだ?」 そう声をかけながら近付いてきたのは、ロックを直接捕らえた男の姿だった。 男は、警護兵などでは無かった。 姫と間違えたのには未だにショックを隠しきれなかったが、とにかくその男はそれ相応の衣服を纏っているのだから、王家の人間という事になる。 王子だったのか、と今更ながらにロックは思った。 今は髪を束ねていて、しっかりとした男に見えたが、それでもやはり綺麗な顔立ちに変わりはない。 「食べたほうが良い」 そう言いながら男が差し出したのは、質素な食事だった。それでも、今迄聞いて知っていた上流階級の仕打ちと比べれば、それが相当良いものであることが分かる。 「どうしてこんなに世話をやいてくれるんだ?」 男の言葉を無視し、ロックは正直な疑問を口にした。 「あんた、王子だろ?俺は侵入者で、あんたは此処の住人であり王子なんだ。…何か優しすぎないかな?」 「そういうものか?」 「いやあ…聞いてた話と随分違ったもんで……あ」 はっ、として、ロックは頭を抱えた。 おいおい、何を和んでいるんだ!? どういう訳か、この男と話していると和んでしまう。立場というものが有耶無耶になっているような気がするのだが、相手は一体どう考えているのだろうか。いっその事、鞭打ちの刑とか火炙りの刑とかにしてくれれば、それこそ少しは現実味があるというものだ。そんなことを思いつつも、そうならずに済んだことにホッとしていたりもした。 「お前は変な奴だな」 男はそう言って笑った。 いや、あんたの方が変だよ、と、ロックは心の中で突っ込む。 どういう訳か、鉄格子越しに腰を下ろした男は、友達同士がするのと変わらないふうに話しかけてきた。 「で、お前の名前は何て言うんだ?」 「ロック。ロック=コールだ。一応、これでもトレジャーハンターなんだぜ」 そう得意げに語ったは良かったが、何故自分から素性を明かしているのだろうと疑問になり、やはりまた軽く落ち込んだ。 「そうか、ロックだな。では、ロック。何故フィガロに侵入したんだ?」 「何故ってそりゃ…」 「トレジャーハンター…という事は、財宝目当てということか?」 「ああ、まあ…」 本当は違うんだけどな、とロックは肩を落とした。しかしそんな事情を話したところで、相手にとっての自分の立場が変わるわけでもないだろう。 侵入者は侵入者なのだから。 口ごもるロックに、男は何故かこんなことを言った。 「本当は、財宝なんて取る気が無かったんじゃないか?」 核心をつかれ、ロックは驚いた。 「何でそんな事…」 分かるんだ?、と続けようとしたが、男の方が早かった。 「フィガロには財宝なんて無いからな」 「……」 正に放心状態だった。王家に財宝が無いなんて事は無いだろう。そう思ったが、男は軽快にその理由を話した。 「フィガロは俺の手で改良中だからな。財宝なんてものはとうにない。常に姿が変わってる。民の為の食料や、城の修繕や、いろいろだ。こんなことはプロのハンターならお見通しな筈だぞ。いまやフィガロに手出しするような奴はいなくなったんだからな」 「そ、そんなあっ!」 知らなかったのは事実だったので、反論は出来なかった。しかし、その話が本当で、プロのハンターならば誰でも知っていることだったとしたら、何故あの時、この話は持ち上がったのだろうか。何のために。 「言ってみればアレだ。鼠捕りみたいなものだな」 「ネズミとり?」 そうだ、と男は満足そうに笑った。 それは、男が仕掛けた罠だったのだ。 フィガロ城下町であるサウスフィガロでは、盗難が相次いでいた。どうやら姑息なハンターの仕業らしいとの通報で、男は何とかしなければと考えた。ただの盗人ならばともかく、ハンターならば大きなものに飛び付く筈だと踏んだのは正解だった。フィガロ城内の偽の地図を作成し、ご丁寧にハンター連中に流したのも彼自身だったのだ。 効果は上々で、今迄幾人ものハンターがこの手に引っ掛かった。それも数が重なると、そろそろ真偽が流れ始めたのか、ハンター達はフィガロに近付かなくなった。結局サウスフィガロでの被害も無くなり、正に作戦は成功したという事になる。 だからこそ男は、ロックがその事を知らずに、今更そのような行動に出たのが可笑しくて仕方なかった。 「とまあ、そんな訳だ。そうやって幾つかの組織的なハンター達は潰してやったよ。お前はきっと、騙されたクチだな」 「聞けば聞くほど不甲斐ない…はあ…」 男は声を上げて笑った。 「良いじゃないか、面白い体験だったろう?気にするな。お前はそう悪い事をするタイプじゃなさそうだ。明日には出してやるさ」 「そうか…でも何か納得できないような…」 ブツブツと続けるロックに、男は手を差し出した。 そして、とても信じられないことを口にした。 「遅くなったが、フィガロ国王の、エドガーだ」
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