王様の不在

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「はあ!?」

真夜中の酒場で、ロックは素っ頓狂な声を上げた。

「だから、王国のお宝さ、お宝」

「いや、そりゃヤバいだろ。じゃ俺これで…」

「おいコラ、逃げんな!」

がっつりと襟首を掴まれて、かなり逃げ腰だったロックは力無く笑った。

ロックを捕らえたまま、男はにんまりと笑う。

「勿論、やってくれるよな?」

無信仰ではあったが、ロックは神に縋りたい気分だった。

が、結局は承諾すると、

「とほほ…」

諦めたようにそう呟いた。

 

 

自称ではあったが、トレジャーハンターを名乗っていたロックには、それなりの信条があった。それは誰の所有権も無い「お宝」だけをターゲットにするというもので、それはロックをこの道に引き摺り込んだ人物から教えられた、ロックにとっては守るべき砦だった。

トレジャーハンターを生業とする者は世界各地にいるが、そんな連中が時折集まっては情報交換をするのが、昨夜の酒場のような、いわば地下の空間だった。

昨夜ロックに話を持ちかけた男も、また同じハンター仲間だったが、ロックの中では一線を置いている間柄で、特に親しいという訳でもない。

ハンターにも、二種類の思考がある。

一つは、探し出すこと自体に意味を見出すこと。

もう一つは、宝を金銭とイコールの関係と考えること。

ロックはどちらかといえば前者だったし、他人の所有物をハントするなど信条に反したことだったから、「盗む」という意識には罪悪を感じてしまう方だった。

けれど。

 

「はあ〜…」

昨日の話を思い出すと、めちゃくちゃ憂鬱になる。

『良い話がある。デカい山だ』

そう言われ、何だろうとハンター魂が燃えたものだが、その内容には正直落胆した。

『王家の財宝だ。一生呆けて暮らせるくらいはあるって話だ』

その王家が没落した過去のものなら大喜びだった。

『で、どこの王家だ?』

『フィガロ』

『――――――は?』

『は、じゃねえ!有名だろうが!そこに眠る財宝があるってんだ。悪ィが俺は事情があってやれねえんだ。お前ェがやれ』

冗談じゃない、とロックは思う。何の事情か知らないが、それは信条に反する上に、危険すぎる。

 

フィガロ―――確か最近、政権交代があったという国だ。詳細はてんで知らなかったが、規模は大きい。確か随分と安定した治安で、国王は人望が厚いと聞いた事があったように思う。

つまり、それは…。

「国民を敵に回せってのかよ」

さらに溜め息を吐いたロックだったが、ネタを提供してきたあの男の事を考えると、そう言ってもいられない。

男は…危険な存在だったからだ。

戦うことに怯えるつもりは一切無かったが、男のバックに就いている組織は、ヤバい。

戦死やハント中の名誉の死ならまだしも、そんなことで死ぬのはゴメンだった。

自分の体の一部がホクホクと流通されているところを想像して、ロックはげっそりした。

「―――やるか」

そう言って、ロックは決意した。

捕まってしまったならば、世界中の指名手配になるかもしれないな…そう思いながら。

 

 

フィガロ王国シンボル―――フィガロ城。

古いが、かなり良い造りをしているのは素人目に見ても分かる。その城壁に並ぶ大木の群れの一つに、ロックは飛び乗った。

丁度そこからは、ある一室が良く見えた。

一番広い部屋で、無用心にも窓が開け放たれたままの状態。

「誰だ、あれは?」

思わず呟きを漏らした目線の先には、長い髪を擁し、スラリとした体を上等な布一枚で覆っている人影があった。

その人影は、ふいに外を向き返った。

「やべっ!」

慌てて葉の中に隠れると、その隙間からロックは引き続き観察をした。

どうやらロックの存在は気付かれていないらしい。

その人物は、遠い目で外を見遣っている。何か考え事らしい。

しかし、それにしてもその姿は妙にロックを惹きつけた。

理由は単純だった。

「…何てベッピンさんなんだ」

女は嫌というほど見てきたけれど、どうにもこうにも、此処まで気品に溢れ、さらに容姿に優れている人は見たことが無かった。

さすがは王国の人間…格が違うな、そう思う。

「王女様か。いや、姫かも」

そんなことを考えつつも、これから自分が取るだろう行動を想像し、ロックは胃が痛くなった。

「もうホント…ごめんなさい!」

そう呟き、その姫らしき人物が姿を消すときを待つ。

それはそう遠くも無い未来にやってきた。

 

 

 

時期を逃すことなく、ロックは素早くその部屋へと飛び込んだ。

さすがに慣れた身のこなしである。

注意深く周囲を見渡し、慎重に音を消した。

あの姫は戻って来ないだろうか、そんな危険もある。

どこから入手したか分からないが、フィガロ城内の地図というものを手渡されていたロックは、此処に来るまでにしっかりその図面をチェックし、頭に叩き込んでいた。迷うことはまず無い。

この部屋が二階の奥という事は、最初から計算してのことだ。

ここからまずは下に下りなければならないが、その為には部屋を出なければならない。しかしそれは先程の姫が姿を消した方向だから、もしかするととんでもない事になるかもしれない…という事になる。

それにしても…。

「(何ていう…質素な部屋だ)」

心の中でそんなことを呟く。

姫の部屋にしては装飾品が少ない。とはいえ王家なのだから、勿論その家具の一品一品には膨大な値段が付いているのだろう。

「(まあ、そんな姫がいても良いよな)」

返って親近感が沸くな、と思い、何だかロックは微笑んでしまった。

が、しかし。

 

「誰だっ!!」

 

はっとした瞬間には遅かった。

「畜生っ!」

舌打ちしながらロックは素早く窓からの脱出をしようとした。早さには自信がある。だが、そんな自信を打ち砕くように、その動きはいとも簡単に破られてしまった。焦っていたせいか、上手く俊敏な動きが出来なかったのが運のツキ、である。

「うわっテテテテテっ!!」

腕を取られ、さらに捻り上げられたロックは、痛みに顔を歪ませた。

「何だ、お前は!どこから入った!」

後ろ手を取られているから相手の顔が見えない。しかしどうも男の声らしい。警備兵だろうか。

ロックの頭の中には、わっせわっせと自分の体の一部を嬉しそうに運ぶオッサン達の姿が浮かんだ。

「勘弁してくれっ!やっぱあんな話に乗るんじゃなかった〜っ!」

「?」

相手はどういう訳か、捕らえた手の力を緩めた。途端に痛みが緩んで、ロックは少し驚く。

何でそんなことするんだ?

「…あの?」

捕まえて欲しいわけではなかったが、しかし理解できない行動だったことに、つい疑問系でそんな言葉を発する。

そう言いながら振り返ったそこに、相手の姿があった。

「あれ?」

変だ、絶対おかしい。

ロックは頭の中がパニックになり、自分の状況も忘れて思わず聞いてしまった。

「あの、姫…ですよね?」

そこには、先程の姫が立っていた。長い髪、スラリとした体。

確かにあの人だ。

しかし。

「誰が姫だ、誰が。フィガロには姫などいない」

その声は、しっかりと男の声音を放っていた。

 

 

 

「うえ〜っ、男だあああっっっっ!!!!」

 

 

 

声を聞くなりロックは大声を上げた。

捕まっているというその状況よりも、その事実へのショックの方が大きかった。何故って、一瞬でも見惚れたりした自分がいたからだ。

何という失態!

「うお〜俺の馬鹿〜っ!!」

「何を喚いてるんだ、コイツは…?」

男は首を傾げながら、訳が分からないといった困惑の表情を見せた。

しかし、とにもかくにも、男から見ればロックの存在は「不審者」に他ならない。妙な喚きは理解できなかったが、とにかく男は処置をしなければ、と冷静に判断した。

 こうしてロックは、フィガロ城に囚われることになったのだった。

 

 

 

 

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