満天の星

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A lot of stars in the sky...

 

 

あの頃、俺達にはルールが一つあった。

それは「自由」

何にも縛られない ただ笑いあう

未来に怯えるなんてしない

自分の夢に真っ直ぐな瞳

だけど

何かが変わってしまった夜

俺達は受け止めるしかできなかった

穏やかで そして生き急ぐ人々の群れの中

何もかも失うように時は過ぎるけど

ふと振り返ると そこには

懐かしい声と笑顔が蘇る

覚えているだろうか

あの満天の星空を

俺達が見たあの星空は

いつでも真実をうつしている

そして

それは今も昔も変わらない

あの星空は時を越えて 現在に続いている

そう

遠く離れていても この星空は

俺達に続いている

満天の星

 

 

 

 

 宿屋の一室で、一日の疲れを取り払おうと、面々はくつろいでいた。

 女性陣は別室でもう休んでいるらしく、音が何も聞こえない。取り残された男性陣は、エドガーとロックとマッシュ。 

戦いの中で、国王とは思えないほどの力を見せるエドガーは、時々フィガロのことを口にした。それは政治の事だったり、サウスフィガロなどのいわゆる俗世間の事だったり、様々だった。

そんなエドガーをしげしげと見ながら、ロックは言う。

「やっぱエドガーってさ、何となくクールだよな」

 幸いか否か、集まった仲間達は誰しも明るさを擁していたが、時折思うのはそういうことだった。

 その言葉を受けて、エドガーはプッと吹き出した。

「何だよ〜ッ!笑うトコじゃないだろ〜ッ!」

 ふくれながらそう言うロックをよそに、エドガーは双子の弟に話を振った。

「俺がクールだって。なあどう思う、マッシュ?」

「ノーコメントだなッ」

 穏やかな顔でそう答えたマッシュに、エドガーはふっと笑みをこぼす。

「だろうな」

 

 

 

 国王が倒れたという知らせは、一瞬にしてフィガロ城内を駆け巡った。それはフィガロに大きな波紋を呼び、やがてまだ幼い王子達にも影響を及ぼした。

 城内二階にある自室のバルコニーで外を見遣っていたエドガーは、真っ先にその知らせを受けていた。いつかはこんな日が来る、そう思っていたが、それは思ったよりも早かった。数ヶ月前から病に冒されていた父は、それでもフィガロの為に政治を執り行っており、その一方で口癖のように言っていた。

『もう長くない』

 それは専属医師からも告げられていた事実で、何故かエドガーにも知らされていた。

 フィガロはどうなるんだろうか。

 そんな事を思ったが、それ以上にエドガーの心を締め付けるものがあった。

「兄貴ッ!」

 ふと背後からそんな声をかけられて、エドガーは振り返る。

 見ればそこには、悲壮な面持ちのマッシュが立っていた。幾分息を切らせているように感じたのは、気のせいではない。その理由すら、エドガーは分かっていた。

「父様が倒れたって…」

 青ざめてそう言うマッシュに、エドガーは冷静に「うん」と言う。

「俺達のどっちかが次期国王だって言ってた」

 当然の事だったが、それはマッシュにとっては非現実的なことに他ならない。その話は、父親が病の冒されたと解った時から、城内の誰しもが考えていたし、それを実際口にする者も少なくなかった。それでも天性の楽観性でマッシュは、そんなこと無いよ、と笑ってかわしていた。

 それなのに。

「次期国王は俺の方だよ」

 にっこり笑ってそう言うエドガーにマッシュは呆然として、

「え?何で分かるの?」

 とハテナマークを飛び散らかしながら聞いた。

「だってそりゃ俺の方が頭脳明晰だし、容姿端麗だし」

「…あ、兄貴…そういう問題じゃ…」

「加えて言うなら足も長いし、女の扱いも上手いときてる」

「いやだから、そういう問題では…」

「さらに帝王学の勉強は完璧」

「…それ、俺以上に兄貴の方がサボってたよ…」

 そんな会話の中で、エドガーは重い空気を吹き飛ばすかのように笑う。

「ははは。まあどっちにしろ、マッシュは心配しなくて良いさ」

「……」

 マッシュは、そんなエドガーの様子に違和感を覚えた。

 何故なら、今迄二人の間で交わされた会話からは想像も出来ない言葉だったからだ。エドガーは本気なのか冗談なのかを曖昧にしてそう言ったが、それでもマッシュにとってそれは許し難いことだった。

 二人でいつも話してきたことは、いわば夢物語だった。

 フィガロという檻の中から、自由に羽ばたく、夢物語。

 この環境に生まれついた二人には、自由を選ぶ権利は無かったから、だからせめて言葉にしたのだ。叶うことなど無いその夢は、二人に無限の喜びをもたらす。

“いつかは絶対……するんだ”

 そう言って、笑いあっていた。それなのに今目前のエドガーは、夢物語をまるで否定するようにそんなことを言うのだ。

「兄貴、そんなの嘘だ」

 そうポツリと呟いて、マッシュは握った拳を震わせた。

 次の瞬間には、マッシュは声を荒げていた。

「兄貴それで良いのかよ!本当にっ!」

「マッシュ…」

 まさかこんなふうに責められるとは思ってもみなかったエドガーは、思わず目を見開く。

「国王なんて真っ平だって言ってたくせに!」

「それは…」

「親父みたくヘコヘコ人に頭下げんのなんて嫌だって…自由になりたいって言ったろ!」

 勢いの収まらないマッシュの物言いに、エドガーは無意識に過去を思い出していた。それは、マッシュと話した言葉であり、そしてフィガロの人々が口にした言葉であった。

 

……ほら、何とかって国があるだろ?…

…あそこと国交結ぶのに、また金出したって…

…もうフィガロの財政も苦しいっていうのに…

…あんなふうにはなりたくないな…

…色々気を遣って疲れるよ…

…何でこんな境遇に生まれついたのかな…

…自由になりたい…自由に…

 

ふと意識が戻ると、その途端にマッシュの声が耳に突き刺さった。

「嘘だったのかよ、あれは!」

 エドガーは酷く辛い気分になる。確かに国王になる事を容認すれば、それはマッシュとの会話に於いては立派な“裏切り”かもしれない。

けれど――――じゃあ、どうすれば良いというのか。

選ぶ道など無い。どうしようも出来ない事なのだから。

「マッシュ…やめてくれ…」

エドガーは、いつの間にか握った手を震わせていた。それは、今の今まで我慢してきたものが爆発する前兆だったかもしれない。

そして、マッシュの言葉によって、それは開放されてしまった。

「そんなすぐに夢を諦めるなんて!」

「うるさいっ!」

マッシュはビクリとする。それはいまだかつて見たことの無い兄の顔だった。自分に対してエドガーが怒鳴りたてた事など、マッシュの記憶の中には一度も無い。

二人の間に、只ならぬ空気が流れる。

言ってはならない、そう思っていた言葉が、エドガーの口から溢れ出した。

「そうだ…俺だって自由になりたいさ。王位継承の件だってそうさ。マッシュが継げば……」

それは、何度も思った事――――――。

 

「俺は自由になれるんだよッ!!」

 

エドガーは今迄何度となく悩んできた。マッシュでは無く自分が継がなくてはならない王位について。いつかはこうなるのだろうとは思っていたが、しかし考えたくなかった。大人に近付くにつれその期日は迫り、ここ最近ではカウントダウンと一緒だとさえ思っていたのだ。

しかし―――その事実をマッシュは何一つ、知らない。

「俺は…」

言葉を紡ごうとしながらも、エドガーの意識はふっと途切れた。

「兄貴!?」

マッシュの声が反響する。

それと同時に、エドガーの身体はその場に崩れ落ちた。

夜空のもと、淡い金髪をふわりと舞わせて―――――――――……。

 

 

 

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