食堂ろまんす
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あたいは神羅の食堂を牛耳るオミツってもんだ。 出身はウータイ、歳は…ヤダね、女に歳なんて聞くもんじゃないよ!(ペシッ) で、だ。あたいの一日ってのはそりゃもう大変なのさ。 神羅の兵士ってのはそりゃ〜もう何万って数がいるんだわさ。だからあたいを含め食堂の連中は朝5時に仕事場(食堂)に入って、白いエプロンを吐くほどギュッと締め付けると、皆でオタマを右手に持って厨房の中央に円陣を組むのさ。 「戦闘準備――――――――イイ!!」 「おおおおおおおおおおうううう!!!」 いつもの号令でオタマを掲げると、我らがリーダーは時計のタイマーをセット。時間は7時にセットしてある。ということはあたいらは二時間で下ごしらえをしなきゃならないのさ。 でも考えてもみておくれ。 兵士の朝ってえのは大変さ。 何せ食べ盛りの若いのが多いんだ、しかも寮になってるもんだから外食する奴なんて滅多にいないし、男ばっかりだもんだから朝メシを抜く奴も滅多にいない。だから大体あたいらが全員の食事を作るのさ。 因みにあたいらとは別個にレストラン班ってのがある。これは何だか知らんが、ミッドガルの超高級ぱてぃしえとかいう奴がリーダーで、皿の上にちょこっと食いモンが載ってるくらいのもんだからあたいらにとっては出来の悪い奴らなのさ。あたいら食堂班とは永久のライバル同士ってわけでね。 大鍋にわかめスープをこしらえて、それからキャベツ50個分を千切りする。あんた、この大変さったらないよ。でもこのオミツに任せな。そんなのチョチョイノチョイでやってやるから。 ズザザザザザアザザザザ…(千切りの音) 「オミっつぁん、アンタやっぱり凄いねえ〜」 「なに、こんなの朝飯まえよ!」 そう言いながらキャベツを切り刻む。 カコンカコンカコンカコンカコンカコン……(卵割りの音) あたいの隣では、同僚のタエが猛スピードで卵300個を割ってる。あたいらは世間話なんかしてたって手は止めないのさ。それが職人ってもんよ。 「キャアア!」 どこからかそんな声がしてきて、あたいはバッと振り向く。 「どうしたい!?」 するとその悲鳴は、最近入ってきたばかりの生娘ルリのもんだった。まったく世話が焼ける子だよ。今度は何を失敗しちまったのかドキドキしちまう。毎朝この子が入ってると何かしらハプニングが起こるのさ。 それで今日は何かと思えばこの始末さ。 「オミツさん。これ…」 「なんだい?ん、こりゃ青虫だね。なに、ダンボールの中にいたのかい?」 「違うんです。サニーレタスをむしってたら出てきて…」 「こんなの、こうしてやるのさ」 あたいはその青虫を手でつまむと、仰天して失神しそうなルリの前で、熱々の油の中に放り込んでやった。温度は200度近いもんだから、そいつはジュッなんていって一気に揚げられちまった。正に青虫の唐揚げさ。 「ほらよっと」 で、あたいはそれを菜箸で掬い上げると、熱々のまま口に放り込んだ。 (注:良い子は真似をしないで下さい) 「ングング…ごっくん。あーウマイね〜」 「お、オオオオオミツさん。青虫を食べ食べ食べ…」 何が何だか混乱してるルリの隣で、299個目の卵を割っていたタエがあたいに向かってぶーたれた。 「あら、オミツっつぁん、ズルい〜。あたしも食べたかったわよお〜」 「あーごめんよ。食っちまった。ガハハハ」 こんなもんは日常茶飯事さ。ルリみたいなのにはまだまだ分からんだろうが、もっと修行でも積みゃあこの子もその内青虫を蒸して食い始めるさ。 で、あたいはまた猛スピードで作業にかかる。何てったって大量だ。 今日の朝の献立は、タマゴスープに海鮮サタダ、それからスペシャルオムライスに牛肉とニンニクの甘辛炒めだ。 今日のあたいは海鮮サラダ班。でもってタエはオムライス班なのさ。今頃憎きレストラン班も下ごしらえを始めてる頃だろうよ。あっちは毎20食限定なんだとさ。でもこっちはそれどこじゃない。何せ食堂だ。サボリ兵士なんかが「おばちゃん、メシ食いてえ」なんて言おうもんなら、食間って言われてる時間帯でもサッと出してやんなきゃマズいのさ。しかも午後3時にはデザート時間がある。これにはまたデザートをこしらえなきゃならんから一日あたいらは厨房の中だ。 そんなこんなで下ごしらえ終了。
ピピピピピピピピピピ……(タイマーの音) 「――――――――――――――来た」 リーダーがそう言ってタイマーを止めた瞬間、あたいらの厨房にはピンと緊張感が張り詰めた。ああ、ついに来ちまった。この時が。 そしてリーダーの雄たけびが上がる。 「よおおおおおおおおおおおおいいい!!!!!」 来る、来る、来るぞ!! 「始めええええええええ!!!!!!」 バッターン!!! リーダーの声と、食堂のドアが開いたのはほぼ同時。 ああ、そうさ。 食堂開店の時間だ! ドアが開いた瞬間に今までまだかまだかと待ち構えてた兵士らがドドドドッとなだれ込むように入ってきた。あたいらはおたまを持つ手に力を込めて、それからデシャップ担当は腰を低くして股を開いて杓文字に力を込めたもんさ。 「はい、並んで並んで!はいそこ横入りは並びなおしだよ!ほらトレー持ちな!」 そうして手際良く兵士らのトレーにポンポンと置いていくと、ベルとコンベアかなんかみたいに奴らはちゃあんと進んでくのさ。これはもうプロのなせる業さ。 でも困ったことにたまに金を出して別メニューを頼む奴もいる。そう、例えばこんな奴さ。 「おばちゃん、悪い!ぶっかけうどん食いてえんだ」 「あんだって?ぶっかけかい。10分かかるよ!」 「OK!俺二日酔いでやべーんだ。さっぱりした奴食いてえのよ」 「あいよ、仕方ない奴さんだね。席着いてな。食券あずかるよ!」 「悪イね」 ほうら、こんな塩梅さ。まあでもあたいらはプロさ。だからこういう時だって対処は万全さ。 「はい、ぶっかけ入ったよ!!!」 そう厨房に叫ぶと、中から、 「あいよっ!かしこまりっ!!!!」 そう威勢良く返ってくる。それでもってぶっかけは10分後にちゃあんと出てくるのさ。さすがは食堂班だ。これがレストラン班だったら考えてもごらんよ。あいつらときたら「今日は品切れでございます」だとか言いやがるのさ。ふざけるのも大概にしろってんだ。こっちは商売、客の欲しいもんは出すのがプロ、礼儀ってもんだ。まああたいらにとってはこの兵士らともう仲も良くって、しかもあたいらにとっては息子か孫のレベルだから可愛いの何のって仕方ない部分もあるんだけどさ。 「ぶっかけできたよ!!」 呼んでやると、さっきの兵士は「あんがとさん」なんて言ってウインクなんかしてくる。まあったく若いのってのは罪だね。それ見たら、馬鹿やってんじゃないよって思っちまうけどこっちも若返る気分だよ。 朝のラッシュはそんなもんで終わりさ。大体7時から8時までで皆食事は終わっちまう。後は遅れてくる奴がちょろちょろ続くけど、大体それからってのは遅刻の一般兵士か、まあそるじゃーって奴だ。そるじゃーってのは強おい兵士なんだとさ。そいつらは給料が良い分、スペシャルメニューを頼む奴が多い。スペシャルメニューってのは大勢の兵士らに食わせてる食事と違って、毎日変わるちょっと豪華なメニューのことだ。これは一食350ギルだから一般兵士の奴らは滅多に食わない。朝・昼・晩と三回のスペシャルメニューがあってたまに毎食スペシャルで来る奴もいる。よっぽど機嫌が良い時だろうがね。 「おばちゃん、スペシャル」 そう言って今日もそるじゃーが食券を出してきた。 「あいよ!スペ…」 そう言ってそるじゃーの顔を見た瞬間、あたいの手は止まっちまった。 手に握ってた杓文字がカランなんつって落ちちまったくらいさ。 「あれ?どったの、おばちゃん?」 「あ、いや…何でもないよ。はい、スペシャル入ったよー!!!!」 「はいよ!かしこまり!!!!」 厨房の威勢良い声を聞きながら、あたいはどうしちまったもんか、おどおどしてきた。参ったね、こりゃ。 そう、実はね、このそるじゃーはあたいのお気に入りのそるじゃーなのさ。 そりゃキレイな黒い長い髪をツンツンに立ててて、可愛い目なんかしちまってからに。しかもあたいがお気に入りの理由はこのそるじゃーの愛想の良さなのさ。 「席についてな、呼んでやるから」 そう言ったのに、そのそるじゃーはそこを離れようとしない。それどころっか、あたいに世間話なんかしてくるのさ。これは毎回決まって話してくる。 「おばちゃん〜俺もう駄目かも。ちょっと聞いてくれる?俺昨日も女の子にフラれちゃった〜」 「ええ、あんたがかい!?そりゃ駄目だ、その女に見る目がないのさ。あんたは良い男だよ」 「で、しょー!?もうおばちゃん大好き!そう、何かその子はさ、筋肉隆々の人って嫌いなの、とか言うんだぜ。もう俺、ヘコんじゃったよ。結構自慢の筋肉なんだけどさ」 「おうおう、男はそれで良いのよ。女を守れないようなのは駄目さ。風が吹いたら飛んじまうような奴は駄あ目!あたいがあと何十年か若かったらあんたみたいのとろまんすだったのにねえ」 残念だねえなんて言って笑うと、そるじゃーも残念だよと言って笑う。まったく邪気の無い男だよ。それでももう二十歳は超えてるんだろうけどね。 何ていうかあたいは本当に思ったりしちまうのさ。もうちょっと若かったら本当にあたいはこの男に恋しちまってたね。これは間違いない。いいや、今も本当はちょっとトキメいちまってるのさ。女だね、あたいも。 「あ、おばちゃん。大盛りね、メシ」 「あいよ!」 このそるじゃーは良く食う。そらもう昔、大食いコンテストの時にだって良く頬張ってたもんだ。あたいはあの雄姿を忘れられないね。あれはあたいの思い出だね。 そうしてそのそるじゃーにスペシャルを届けて、あたいの朝は終わるのさ。
朝が終わっても次にはもう昼の準備が始まる。昼が終わったら3時のおやつの準備、それが終わったら夕食の準備だ。それから夜食を食いたい奴がいるから、それ用のメニューを準備しておくのも忘れちゃいけない。 あたいはこうして毎日過ごしてるが、あのそるじゃーがいるから毎日ウキウキなのさ。なに、女にフラれたってどうってこたあないさ。 いざとなったら、このオミツが面倒みてやるつもりさ。 そんなふうに一日終えてあたいらが家に帰るのは大体もう9時くらいの話だ。それから寝て5時には起きるんだから大変といったらないね。しかも家に帰ったらまた食事の準備さ。毎日毎日料理ばっかりしてんだからあたいも凄いってなもんよ。 その帰り道、たまあにタキと一緒になったりする。もう夜も深いってえのに遅くまでやってるスーパーに買い物に言っては、これは鮮度が足りないねえなんて言って、お客様ボックスに意見してやるのさ。このチンゲン菜は顔色が悪いよ、ってね。 その日は珍しくタキの旦那がゲートボール旅行に行ってるってえもんだから、あたいはタキに誘ったのさ。一緒に夕飯でもどうかってね。そしたらタキは、 「あら良いの、オミツっつぁん?じゃあお言葉に甘えてえ」 って答えだったからあたいとタキは一緒にあたいの家にまで帰った。 この日はウチの飲んだくれ旦那も、趣味の社交ダンスの集まりがあるってんで出かけてたもんだからウチには誰もいなかった。あたいには息子が一人いるけど、あの子はもう大人も大人になっちまって、もう何年も前に家を出たきり手紙も寄越さない。まあそれもアノ子の人生さと思ってあたいは連絡がいつか来るだろうって気長あに待ってるだけで催促なんてしない。あたいにはあたいの人生があるのさ。
家に帰ってタキと一緒に湯豆腐なんて作って食べる。湯豆腐はタキの大好物で、あたいとこうして夕食するときには湯豆腐のときが多い。 鍋の真ん中であっためた万能ネギ入りのポン酢をつけて、するっとやる。うまい。さすがだね。豆腐は絹ごしさ。 「ねえオミツっつぁん。最近オミツっつぁんツヤツヤしてるわねえ」 「何だい、ツヤツヤってえのは?」 そう聞くと、タエは嫌だあなんて言いながら脇をつついてくる。それからまた豆腐をつるっとやると、 「オミツっつぁん、お気に入りの兵士さんがいるからねえ」 そんなことを言ってきた。 そう来たかい。そう思ったけどあたいには否定なんかできなかったね。あたいの旦那なんてえのは社交ダンスでヒラヒラスカートの女と踊ってて肌はツヤツヤ頭はピカピカで長生きしそうだけど、あたいなんていつだって食事係でずっとそんなこと気にかけてやしなかった。でもあのそるじゃーに会ってからというもの、どうしちまったんだかあたいは肌の手入れなんかし始めて服まで気にかけ始めちまったのさ。あたいとしたことが、びっくりだよ。 「ガハハ、嫌だよう〜タエったら。でもねえ、まんざらでもないねえ」 「うふふう。良いねオミツっつぁんはあ。あたしも良い人見つけてまた恋なんかしたいわあ」 「タエだったらできるよ!まあ相手が息子と同じような年だってのは問題だけどねえ、女心ってのに歳は関係ないよ」 「そうだねえ。良いねえ。そうだ、オミツっつぁん。その兵士さんに何か作っていこうかあ?」 「何だって?」 タエが湯豆腐を頬張りながらそんなことを言うもんだから、あたいは思わず噴出しちまったよ。何か作るってのは一体何だ。そう思ってたらタエは、甘いのは好きなのかねえ、だとか、お夜食が良いかねえ、とか言い出す。 ああ、そういうもんか。そうだ、それは良いかもしれない。まさかこの歳でろまんすしようってのはないけど、そういうのは良いね。あのそるじゃーが顔くしゃくしゃにして笑って喜んでくれたらあたいはそれだけではっぴーさ。 「そうだね、何か作るか!でも甘いもんは食わない顔だね、ありゃあ」 あたいらは早速、何を作るかってえ話を始めた。最初は甘いものが早いという話だったけど、あのそるじゃーはそんなに甘いもんなんか食わなそうだ。本当はあたいのオハコって、ドラ焼きなんだけどね。折角の腕のよりどころだが、そりゃ今回残念ってことだ。 じゃあ何が良いかねえ、ってタエと悩んでたら、タエが良い事を言ったよ。 「甘くないお菓子っていったらあ、やっぱりお煎餅かねえ」 「煎餅!それだよ、タエ!」 「うふふう。オミツっつぁん、幸せそうねえ」 「ガハハ!いくつんなっても女は女よ!」 そうしてあたいらは夜な夜な煎餅作りに励んだのさ。残念ながら翌日には間に合わなくて、結局違う日に作り直しになっちまったんだけどね。 でもその煎餅はちゃあんと出来上がったのさ。 あたいとタエの作った、醤油煎餅。一枚食べてみたけど、そりゃもう美味かった。あのそるじゃーはまだ二十やそこらだろうから、そんなもん食べるのかどうか分からんけどね、それでもあたいは満足だったよ。あのそるじゃーに何かできるってえことが嬉しかったんだ。あたいもまだ捨てたもんじゃないよ。
その煎餅を渡す日がやってきて、その煎餅を渡したときのそるじゃーの顔ったら無かった。もう予想通り目をパチクリさせて、本当に俺に?なあんて聞いてきて、本当だよって言ってやるとすごく喜んでくれたよ。 「本当に大好きだよ、おばちゃん!まじ、ありがとな!」 そう言ってにっこり笑ってくれて、あたいは最高にはっぴーだった。しかももっと嬉しいことにそるじゃーはこういってくれたのさ。 「ねえねえおばちゃん、名前なんてーの?」 「名前かい?名前はね、オミツってんだよ」 「オミツ、か。じゃあ俺これからおばちゃんのこと、オミツちゃんって呼ぶな!だっておばちゃんだなんて寂しーじゃん?な!」 ああ、本当にこのそるじゃーは良い男だよ。あたいは思わず目頭が熱くなったね。おばちゃんなんて呼ばれ慣れちまって普通だったけど、そうだ。あたいにはオミツって名前があんだ。そして兵士らはおばちゃんって呼ぶだけだけど、このそるじゃーはあたいをオミツって呼んでくれるんだ。嬉しいね、ああ、本当にあたいは幸せだよ。 もっと早くアンタが生まれてくれたら良かったんだけどね。 それか、あたいがもっともっと遅く生まれればねえ。 「じゃあアンタは何て名なんだい?」 あたいがそう返すと、そのそるじゃーはにっこり笑ってこう言ったもんさ。 「俺?俺はね、ザックス。よろしくな!」
あたいはしがない食堂のおばちゃん。 毎日毎日大量の食事を暇無く作って肌もカサカサ、腰も痛い。 皺は増えるしシミも増える。 でも、それでもあたいははっぴーさ。あたいは恋するオトメさ。 だってあたいには、あたいをオミツって呼んでくれるザックスがいるんだ。 あたいの作ったモンを美味いって食ってくれる兵士らもたっくさんいるんだ。 あたいにとってザックスは客みたいなもん。 ザックスにとってあたいはやっぱり食堂のおばちゃん。
だけどあたいはね、はっぴーさ!
END
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