*レノの武器*

レノには大切な大切な武器があった。

それは棒状の何だか鉄パイプみたいな、ちょっぴり危険な武器。

レノはそれがお気に入りだったが、兼ねてからルーファウスは「それだけは勘弁してくれ」と言っていた。何故ってその棒状の鉄パイプもどきがルーファウスの審美眼に叶うどころかアウト・オブ・眼中状態だったからだ。

何だか良く分からないが美しさにこだわりをもっていたルーファウス氏は、そんなわけでレノの武器があまり好きではなかった。因みにレノの仲間であるツォン氏やルード氏はというと、別に勝手にやってくれ状態であった。

しかし問題は、一体全体ぶっちゃけてソレは何なんだ、ということである。

ルーファウスは断言していた。

「鉄パイプに決まってるだろうが!」

しかし反論する人、ありけり。

「いや、私が思うにアレはゴマなどをすり潰す…」

「…お前。馬鹿?」

めちゃくちゃ真剣に意見したツォンは、ルーファウスのズバリとした一言に呆気なくノックダウンした。

「ひ、ひどいルーファウス様…あれはどう見てもゴマを…」

ツォン氏、どうしてもゴマをすり潰したいらしい。

まあそれは良いとして、此処にルードの意見もあったりした。

「…ボソボソ…」

―――――――しかし残念ながら音量不足でそれは意見として認められなかった。

残念無念。

「お前たちは良いんだ、銃は立派な武器なんだからな。やはりレノの方がおかしいんだろう。皆が銃だというのに一人であんな訳の分からん武器を使って…ああ、銃だったら私も認めるというのに」

「…ルーファウス様。それってご自分がライフル派だから正当化してるんじゃないでしょうね?」

ツォンがそう言った瞬間に、銃声が一つ上がった。

プシュウウと音を立てるライフルを愛しそうに見つめるルーファウス……結構、怖い。

「ひ、ひどいルーファウス様。部下に向かって…!」

おーいおいおい、とルードに泣きつくツォンをサクッと無視したルーファウスは、ああでもない、こうでもない、ともう既に自分の世界に入っていた。

何しろこの人、どうしてもレノの武器が気に食わないのだ。

そもそも、どういった物体なのかが分からない。

せめて、鉄パイプなのかゴマをすり潰すものなのか、それとも洗濯竿なのかハッキリさせて欲しいのである。

そんな訳でルーファウスは、とうとうそれを当人に直撃することにした。

 

 

 

そんなさも下らないことで呼び出されたレノは、部屋に入った瞬間にルーファウスにこう聞かれた。

「さあレノ。お前の武器の正体を吐くんだ」

「…は???」

いきなりそんな事を言われても、レノはちんぷんかんぷんである。

正体も何も、武器は武器である。

しかしそんなレノをよそにルーファウスは…いや、ルーファウスだけでなく、ツォンとルードまでもが、この世のものとは思えない形相で迫ってきた。

頼むから顔のアップはやめてくれよ、と思ったものだが、それは敢えて口に出さない。

「さあ、レノ。言うんだ。あれはぶっちゃけて…鉄パイプだな?」

「いや、レノ。本当のことを言うんだ。本当はアレでゴマをすり潰しているのだ、と…」

「…ボソボソ…(翻訳:洗濯物を干してるんだよな?)…」

―――――――っていうか。

「どれも違〜うっ!」

レノは爆発気味にそう言った。

何せレノはあの武器がお気に入りなのだ。鉄パイプでもないし、ゴマをすり潰しているわけでもないし、ましてやトランクスを干したりなんかしていない。っていうか家庭用品じゃないんだから。

あんまりにも皆が変な解釈をしてくるもんだから、レノはキッパリとこう言ってやった。

「俺の武器には、ちゃ〜んと名前もあるんだぞ、っと!」

そうとも。

レノの武器にはちゃあんと名前が付けられている。

ツォンの銃にどこぞの女の名前がついてるとか、ルードの銃にこっそり写真が貼ってあるとか、そんなのとは訳が違うのだ。そんなのではなく、ちゃんと武器の名前がある。

レノの言葉に感心した三人は、ほ〜う、だとか言いながら、

「じゃあその名前を教えてもらおうか」

と、きた。

おうよ、だったら教えてしんぜようというものだ。

レノは胸を張って、自分のお気に入りの武器の名前を公表した。

「アレは“ナイト・スティック”っていうの!」

じゃじゃ〜ん!

正に公式発表である。

レノはその名前にうっとりしながら誇らしげにしていたが、どういうわけかそれを聞いた三人の方は呆気に取られていた。

いや、それどころかルーファウスとツォンに限っては「ププ」などと笑い始めているではないか。

ルードは何故か閉口している。

何だ何だ何事だ、折角神々しい名前を教えてやったというのに!…レノはそう思ったが、とうとう腹を抱えて笑い始めるルーファウスとツォンを前に、何だか嫌な気分になった。

ルーファウスはツォンの肩をトントンと叩きながら、

「あらやだ、聞きました〜?ナイト・スティックですって〜」

と気色悪い声で言い始める。

「ええ、ええ、しかと聞きましたとも。嫌ですねえ、まったく。こっちが恥ずかしい」

ヒソヒソとそんな会話を始める二人を見て、レノは勿論抗議した。

「何だよ、その恥ずかしいってのは!訳分からないんだぞ、っと」

その抗議を聞いて、またしても井戸端会議勃発。

「“訳分からない”?おお〜嫌だ嫌だ!シラ切っちゃって」

「きっと過去に深〜い傷を持っているのでしょうね。武器にまでそんな…。ああ、私、何だかレノが可哀想に思えて目頭が熱くなってきました」

何だ何だこの二人は!?

そう思ってルードを見てみると、何だか隅っこの方で小さくなっている。…どうやら助けにはならないらしい。

あんまりにも井戸端会議が延々と続くので、その内レノは噴火してこう叫んだ。

「だから何なんだよ!何が不満だ!?」

折角教えてやったというのに、それは尤もな意見である。

しかしそんなレノの叫びも、この井戸端会議には通用しなかった。

―――――何故って。

「不満っていうか、お前が欲求不満なんじゃないのか?なあ、ツォン?」

「ああ…目頭が…」

「夜の棒って……ああ、嫌だ。これ以上私に言わせるな」

「視界が霞んできました…」

―――――…は?

「ちょ〜っと待った!!何だ、その“夜の棒”ってのは!!」

慌ててレノがそう再抗議すると、ルーファウスは手をヒラヒラさせながら、

「夜は夜だろ。棒は棒だ。まあ棒に関しては個人差があるからなあ…まあアレだ。お前もそんなショゲル事はない。確かにあの変テコな武器くらいの立派なもんを持ってたらさぞ良かったろう。だが現実は現実だ。目を反らしてはいけない」

何だかいつの間にか説教くさくなってきたその場に、レノは呆気にとられた。

ちょっと待て。

何だか相当話が違ってきてるような。

そもそも何だ。

個人差?

立派な…??

「…ちょっと待ったあああああ!!!」

「何だ、まだ理想を貫きたいのか。仕方ない奴め」

しらっとそう言うルーファウスに、レノは断固こう言い切った。

「そーいう問題じゃない!ナイトは夜じゃなくって、騎士の方のナイトから来たんだぞ、っと!!!」

「…は?…またそうやって現実を見ないんだから」

はあ、困ったもんだ。

そんなことを言いながらとうとう溜息なんかを吐き始めたルーファウスに、レノは「だから違うっての!」と何度も抗議した。がしかし、彼はそんなことを聞くような人ではなかった。

隣で目頭を押さえているツォンに向かって、良い医者はないか、などと訳の分からん話まで始めている。

レノはいかんともしがたい苛立ちを抑えながらも、頭のどこかでは、改名しようかなと考え始めていた。

 

 

 

ナイトは騎士を意味するナイトから来ていて、結果的にナイト・スティックとは「警棒」の意となる。

しかし今やそれを言っても、誰も信じてはくれないのだった。

だから改名をするなら、今度はちゃんと「警棒」にしようと、固く心に決めたレノであった。

 

 

 

END

 

 

 

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