初夢

 

 

一富士、二鷹、三なすび……おめでたい初夢といえばこれである。

一富士は良いとして二鷹も百歩譲るとして、残ったなすびはどうなんだ、という疑問がわかないでもないが、ともかく常日頃からなすびとこれという関連も持っていなかったクラウドは、その時ばっかりなすびの夢を見ようとしてもやはりその快挙を成し遂げることはできなかった。

富士でも鷹でも良いと思ったが、山といったらコレル山しか思いつかないし、鷹どころかチョコボしか思いつかないクラウドだったので、やはりそれも無理なお話だった。

こうして幸先のよさそうな夢でもと思っていたクラウドの儚い望みは見事崩れ去り、無情にも一年は新たな幕開けをする。

それはこんな具合だった。

 

 

 

「おはよ〜」

新年が明けてからまだ間もないというのに僅か数日ぶりに顔を合わせる状態となったザックスのその挨拶に、クラウドは同じように笑顔でおはようを返した。

その言葉がハッピーニューイヤーでないことには微塵も疑問を感じずにいた二人は、いつもとかわらない会話を繰り広げる。

とはいえこの数日間は任務もなければ訓練もないといった状態だったので、これといって変化があるわけではないから新鮮な話題というふうにはいかない。せいぜいこの数日間何をしてただとかその程度である。

この数日間クラウドが何をしていたかといえばそれは、宿題だった。

学生でもあるまいにと思うが、この数日間にソルジャー試験対策としての宿題を出されたクラウドはそれをこなさなければならなかったのである。それは紙上のものだったからこれといって出かけてもいない。体なんかはなまってしまった気さえする。

しかしそれでも食事の手配など整えられた神羅にいれば何一つ不自由することはなく、年始気分は味わえなかったけれど悪い気はしなかった。

一方ザックスの方は、やはり神羅にとどまっていたものの頻繁に外出をしていた。

何でも神羅の外にいる仲間と会ったりしていたようだ。

めったに会えないからといってここぞとばかりに友人と会ったりしていたザックスは、もちろん年始に浸るような暇などなく、しかしそんなことにはお構いなしといった調子。

ザックスらしい気もする。

「もうすぐ本社の方も始まるらしいな」

ザックスが他人事のように、というか本当に他人事だったが、とにかくそんなことを言うと、クラウドは「そうなんだ?」と首を傾げたりする。クラウドなどは年間スケジュールなどを殆ど覚えていないものだから、へえ、とか、そうなの?、とかの言葉の大洪水だった。

「本社は優雅だぜ〜、休みが俺らの倍だからな。ま、俺らはせいぜい良い初夢にでも縋るしかねえよな」

「え、二倍!?良いなあ…」

そう言ったものの、休みが二倍になったら宿題も二倍になりそうな気がして、思わずクラウドは気分が悪くなってくる。年始早々頭が痛くなる言葉の羅列を見ていたせいか、ただでさえ気持ちが悪いというのに。

それにしても、良い初夢、というのはクラウドの中で少し切ない話題だった。何故ってクラウドはなすびの夢さえ見れていないのだ。

「ねえ、ザックス」

「あん?」

「初夢って何か見た?」

まさかザックスはなすびを見たのだろうか、そう思うと何だかちょっと悔しいが、ともかくそれが気になって思わずクラウドはそんなことを聞く。というか、なすびの夢じゃないくても良いのだが。

そう話題を振られたザックスは突然パッと自慢げな表情を見せると、

「おう、見たぜ!初夢!」

などとクラウドを更に悲しませた。自分がなすびですら見られなかったというのに一体何を見たというのだろうか、ザックスは。富士か、鷹か、もうこの際コレル山でもチョコボでも良い。ともかく何故だか初夢というものを見たというのが羨ましい。

で、ザックスが見た初夢といえば―――――――コレだった。

「神羅が倒産する夢」

「―――…は?」

「いや、何だか知らんけど倒産してたんだよ。で、夢の中で俺は職どうしようかなって悩んでてさ、結局なんでも屋をやろうとかそういう展開になってたんだけど」

「へ、へえ…」

随分、サバイバルな初夢である。

「何かすげえよな。幸先良いっていうか悪いっていうか」

いや幸先悪いし!縁起悪いから!…そうツッコみたい衝動に駆られつつもクラウドは「だね」などと心にもないことを述べる。しかしザックスは豪快に笑いつつも、

「しかもお前も一緒になんでも屋やってた!」

なんて言い出したもんだからクラウドは思わず引きつったものである。

こちとら年始からソルジャーになる為に試験勉強などをしていたというのに、肝心の神羅が倒産してなんでも屋だなんてあまりにも泣けてくる。号泣である。しょっぱい涙である。

「良かったな、ずっと一緒だぜ、クラウド!」

「あはは…」

そうだね、と返しつつも乾いた笑いを見せたクラウドは、やっぱりソルジャー試験の勉強を頑張ろうと心でガッツポーズをしながら誓うのだった。

と、その時。

ふとクラウドの視界に何かどんよりしたものが見えた。

何だろうか、この年始にあれほどどんよりとしたものを背負っているなんて。

そう思って目をコシコシとこすって見詰めてみると、それはどうやらセフィロスだった。

セフィロスはいつもの英雄然とした様子を一切なくし、更にはどんよりした空気を纏いながら二人の方に歩いてくる。そんな調子のせいか、いつもは格好良くて背の高いセフィロスが、0.8倍くらい縮んでいるように見えた。ガッシリとした体などは、当社比0.5倍といった感じである。

それを見て唖然としていたクラウドに気付いたザックスは、くるりと振り返り、そこでやっとどんよりセフィロスを発見した。そして、クラウド同様に驚く。そりゃそうだろう、こんなに英雄らしくない英雄は始めてである。

「おいおい、どうしたんだよセフィロス!何か背負ってるって、何か!」

「ああ…何だか年始から夢見が悪くてな」

どうやらセフィロスも何か悪い夢を見たらしい。セフィロス“も”、といっても、ザックスの方はあの夢を悪いとは思っていないようだが。

その言葉に反応したザックスは、どんな夢見たんだよ、なんて聞き出す。だからセフィロスは背後に背負ったどんよりしたものを更にどんよりとさせながら、その内容をとぼとぼと話し始めた。

その内容とは、こんなものだった。

「話せば長いんだが…――――神羅が倒産した」

「なにぃぃ!?」

「ええええ!?」

その内容がザックスと同じだということは信じられないほどの驚愕であるが、それよりもまず最初に、どこがどう話せば長いのかという部分に大いなるツッコミを入れたい。っていうかとっても端的です、と述べたい。漢字変換して7文字しかありません、と述べたい。

しかしそこは親しき仲にも礼儀あり、というか触らぬ神に祟りなしというか、とにかく触れず、ザックスとクラウドは渾身の驚きポーズを約10秒間続けた。…結果、疲れた。

「何だよ、それ!すっげえ幸先悪ぃじゃん!」

自己フリーズから解けたザックスが自分のことを棚上げしてそう叫ぶ。

「何でそんな夢見たんだろう!?」

クラウドはそうセフィロスに言ったが、心の中ではザックスにも言っていた。

で、セフィロスの方は嘆息をし、どんよりに圧力をかけられながらも「さあ」と首を捻っている。

「分からんが、神羅が倒産したおかげで俺は職なしになって、じゃあ此処は一つ何でも屋をやろうということに…」

「なにぃぃぃ!!」

「えええええ!?」

何でそこまで一緒なんだよ!、と大いに驚いたザックスとクラウドだったが、それよりもまずセフィロスが何でも屋をやる姿があまりにも想像つかなかった。この人だったら、なんでも屋よりも火に巻かれながらフフと笑い、どこかに姿をくらませる方が余程似合っていると思ったのは一体何故だろうか。

そんな事を考えている二人をよそに、どんよりセフィロスは更に言葉を続ける。

「しかもそのなんでも屋には…ザックス、クラウド、お前たちもいた」

「なにぃぃぃ!!」

「えええええ!?」

またかよ!、そう思う。

もうここまでくると、示し合わせて枕の下に何かを置いて強制的に夢を見たとしか思えない。とはいえ、神羅が崩壊して何でも屋をやるような夢をみるグッズ(※枕の下に置けるもの限定)など思いつかない。なすびならともかく。

「良かったな、お前らとずっと一緒だ…」

やつれ気味のセフィロスがそう言うと、ザックスは大いに声を張り上げた。

「おい、やめてくれよ!セフィロスと一緒になんでも屋なんてやったら儲け全部持ってかれるぜ!」

それを横で聞いていたクラウドは、俺と一緒だったら儲けを全部ザックスが持っていく予定だったんだ…!!と思い、涙がちょちょ切れそうになった。

が、しかし。

「ところがザックス、それは違っていたのだ」

「え?」

そう言ったセフィロスはクラウドをじっと見詰めると、どんよりを更にどんよりさせながらブツブツと文句のように言う。

「儲けは全部クラウドのものだったのだ。というか、俺とザックスはクラウドに雇われているようだった」

「な、なに!?」

年始からソルジャー試験に頭を痛ませているクラウドの下僕に―――――!?

というか誰も下僕とまでは言っていないが、しかしどう考えたって一番ランクの低いクラウドに雇われているというのは微妙だった。

「まったく…新年2日目からそんな幸先の悪い夢を見るとは…」

幸先が悪いの意味はそこかい、というツッコミを入れたいところだが、残念ながら今回注目すべき点は違う部分だった。というのも、セフィロスはその夢を2日目に見たのだ。

ザックスと同じ夢を、2日目に。

「え…ってことは――――あれ?俺の夢って初日だったんだけど、セフィロスはいなかったな…。変なの、ここまで一緒の内容なのに」

「一緒の内容?」

呟くザックスにセフィロスは首を傾げる。そういえばセフィロスは、ザックスがほぼ同じ内容の夢を見たことを知らないのだ。

そこで何故だかクラウドがそれを説明する。ザックスの夢でも神羅が倒産し、職を失って困っているところをなんでも屋をやろうということになった―――――と。

しかしザックスも言ったように、このザックスの夢にはセフィロスは登場していなかった。ここまで同じ内容なのに、である。

それを聞いたセフィロスは、ほう、だとか言って「これは驚いたな」などと言った。どうやら示し合わせてグッズを枕の下に敷いたわけではないらしい。無論、なすびでもない。

「そういやクラウドさ、お前は何か夢みたのか?」

「え、俺?ううん、見てない」

ふとザックスにそう言われクラウドはそう答えると、ここぞとばかりに、なすびの夢を見たかったが普段なすびとそれほど親しくしていないからなすびの夢が見られなかったということを力説した。が、それはサクッと無視され、ザックスはううむと唸り出す。どうやら、なすびのことなどどうでも良いらしい。

「…何だかこれって怖いな。俺が初日に見ただろ、で、セフィロスが2日目に見て、その時は内容が広がってた。何かこう…これって続いてないか?」

ザックスは額に手を当てて名探偵ポーズをとると、そんなことを言い出す。

確かにその指摘通り、セフィロスの夢はまるでザックスの夢の続きかのような内容である。何しろ最初は同じなのに、最後だけ内容が付加されているのだから。

「確かに」

そう同意したセフィロスは、そうした次の瞬間に、ザックスと同時にクラウドを振り返った。そうして二人の視線がクラウドに集中する。

いきなりそんな状況になったものだからクラウドは大いに焦ってしまった。

「な、なに!?」

「…クラウド、今度はお前の番じゃないか?だってまだ見てないんだろ」

「そうだ…クラウド、今度はお前の番に違いない。お前がこの続きを見るんだ」

「え、ええ!?」

「いや、見る。確実に見る。っていうか見なかったら許さないな」

「ああ、そうだ。絶対見ろ」

「そんなっ!!」

そんなことを言われても困ってしまう。夢なんて見ようと思って見れると言い切れるものでもない。しかし何だか二人の形相は、続きを見なかったら覚えていろ、といわんばかりだったのでクラウドは引きつりながらも笑って誤魔化した。

この二人にとってクラウドに雇われている状況なのだから、その続きの如何によっては更に恐ろしい雰囲気を纏わないとも限らない。

要は…クラウドはこの夢に続きを見なくてはならず、更にその内容が二人にとって良いものでなければならなかったのだ。

「クラウド、報告楽しみにしてるぜ」

「ああ、真っ先に報告してくれ」

セフィロスなんかは変なものまで背負ってしまっている始末である。内容によってはどんよりによってクリティカルヒットを受けてHP0になってしまうかもしれない。

「あ、ははは…は…」

―――――――――何でこうなるんだよ!?

クラウドは心の中でそう叫びながらも、心の中で号泣した。

クラウドは二人と違ってソルジャー試験の宿題もしなくてはならないのだ。それなのに夢を見ろ、なんて言われたら寝るしかない。しかも夢をコントロールだなんてありえるだろうか。

嗚呼、初夢。

誰かの初夢の続きを強制的に見ることになろうとは、何だか幸先が悪いとしか思えないクラウドだった。

 

 

 

その夜クラウドは、念仏を唱えながらベットに入った。

どうかあの夢の続きを見られますように、と願って。しかもできれば良い内容でありますように、と。できれば儲けは分配制でお願いします、と。更にできれば、俺にもちょっとは儲けがあると嬉しいな、と。

しかしその夜クラウドの夢の中に出てきたのは――――――なすび、だった…。

なすびは横になって割り箸を割ったようなのを四本プスリと体に刺して立っていた。

しかもご丁寧に背景には富士がドドーンと聳え立っており、鷹までブワサブワサと飛んじゃっていた。

嗚呼、夢にまで見たなすび―――――――!

嗚呼、何て縁起が良いのだろう―――――――!!?

…クラウドは涙を流さんばかりの勢いだった。

仕方ないから一度起きてもう一度寝てみたが、今度はコレル山がドカーンと聳え立っており、チョコボがクエ〜とか何とか言ってテケテケ走っていた…。

 

その後もう一度起きてもう一度寝てみたクラウドが見た夢は、セフィロスとザックスに「何で続き見ないんだよ!」と理不尽なことで起こられる夢だった。

翌日、それと全く同じ状況が起こったので、クラウドは思わず自分にツッコミを入れた次第。

……初夢っていうか正夢じゃん!、と。

 

 

 

END

 

 

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