「―――――やはり、人を殺めることしか考えられないのか」

「…!?」

一瞬。

セフィロスの動きが止まった。

全く予想もしていなかったその言葉に驚いたというのもあるが、一体どうしてそのような言葉が出てきたのか、セフィロスにとってはその理由の方が気になったものである。

 

ヤハリ、ヒトヲアヤメルコトシカカンガエラレナイノカ。

 

人を、殺める。

そう、それは――――――だって快楽だから。

この世に二つとない至高の快楽。絶対に誰にも理解してもらえない気が狂ったような嗜好。

一瞬にして静まったその空間で、二人の視線がぶつかり合った。

「―――――別に。俺はセフィロスを止めようとは思わない」

「……」

「どんなに触れ合っても、それでもダメなら…俺を殺せば良い。それがお前の幸せなんだろう、セフィロス?―――――俺は、お前を尊敬している。例えお前がどんな人間であろうと」

抱き合っても抱き合っても得られない快楽ならば、この身を捧げて本当の快楽を与えてやる…、そうジェネシスは口にする。

その言葉は、とてもじゃないが俄かには信じられない言葉だった。

勿論願っても無い事態であることは確かなのだが、それにしてもどうしてこのような事を口にだすのか…つまりセフィロスの望みが分かっているかのような言葉を口にするのか、それが問題である。そこが不透明であるのに、そんな口車に乗るわけにはいかない。

そう思っていたセフィロスだったが、ゆっくりとベットから立ち上がり自分の方へと近づいてくるジェネシスの姿は、既に麻薬と同様の効果を発しており、とてもじゃないが拒めるふうではなかった。

ぴたぴたと近づくその素足が、やがてセフィロスの目の前でぴたり、と止まる。

独特の端整さを持つその顔が、セフィロスを凝視した。

何もつけない素肌は無防備ゆえにすぐに傷ついてしまいそうな雰囲気が漂っており、性的興奮というよりかは破壊的な興奮を高ぶらせていく。

「さあ、セフィロス」

ジェネシスの手が、セフィロスの手首を掴む。

そうしてそれを故意に首元へと寄せると、長い指を咽喉仏のあたりに絡ませた。

「お前のしたいようにして良いんだ。それがお前の――――幸せならば」

「ジェネシス、お前は…?」

―――――――何故。

何故、知っている?

この気が狂ったような嗜好を。

一体、何故。

「さあ、セフィロス」

そう言われ、セフィロスは言われるがままにその手に力を込めた。

本当は、こういう殺し方は好きじゃない。キレのよい刃ですっぱりと切り裂くのが実に良いのだ。首を絞めるというような古風なやり方はあまりに生なましすぎる。そもそも今絞めているのは本物のジェネシスで、本物のジェネシスは偽者と違って暖かくて―――――…。

ああ、ほら――――――――体温が。

「う…ぐ、ぅう、…ぁあ……っ」

苦しむ顔。

この世とあの世の狭間を彷徨っているかのような顔。

さあ、乞え。

乞うのだ。

助けてくれ、と。

やめてくれ、と。

何故こんなことをするんだ、と。

 

さあ、

さあ、

さあ――――――――ジェネシス。

 

 

 

“お前はキラーマシンなのだよ、セフィロス”

“お前は人を殺めるために生まれてきた”

“ほうら、血が欲しいだろう?”

“人の命以上に、お前を満足させるものなどあるまい”

“何しろ私がそう作ったのだからな”

“お前には愛情など一生必要ないのだ”

“命さえあれば良い。血さえあれば良い”

“案ずるな。私がお前の悦楽を用意してやろう”

 

 

 

お前に憧れる人間は後を絶たない。

それが何故だか分かるか?

つまり、そうできているのだ。

お前に憧れる人間がいる限り、お前は人材不足に悩まされることはない。

お前はそこでその命を刈れば良い。

その為にほうら、この世にお前の心棒者を沢山作っておいたのだ。

 

 

 

―――――セフィロスに憧れて神羅に入りました。

―――――貴方にだったら、どうされても本望です。

 

 

 

捧げられた生贄。

父親からの血生臭いプレゼント。

 

 

 

性的欲求は、生理的欲求の一つであり、人間にとって正常な欲求の一つである。それは必ず持つ欲求の一つであり恥ずべきものではない。

しかしそれ以上に人間が希求してやまないのが愛情という得体の知れないものである。それへの欲求の果てしなきことといえば最早説明するまでもあるまい。

愛情など必要ない、その代わりに命を刈ることへの欲求を与えた。

そう言われた人間にとって、人を殺める衝動は愛情を求める衝動と同等である。

求めて、求めて、やまない欲求。

 

 

 

――――――――ああ、だから。

 

 

 

 

 

「セフィロスとは会えないのか?」

地下にある小汚いホランダーの研究室の中で、ジェネシスの冷静な声が響いた。

ホランダーはてっぷりとした腹部を揺らしながら、それは無理だと首を横に振る。

「セフィロスは北条の管轄だ。俺の知ったことじゃない。それにどうせ暫くは会えないだろう」

「何故だ。俺は北条の言うとおりに協力したんだ。セフィロスの病状を悪化させないためにと…だから俺は」

「ははん、それは間違った考え方だ、ジェネシス」

ホランダーは首を横に振ると、

「セフィロスはお前を殺したんだぞ?まああれは偽者だったから良いが、それにしたってセフィロスはお前を殺すつもりだったんだ。そんなやつにどうして会いたがる?セフィロスは殺人マシンだ。お前とは違う」

お前はそういうための人間じゃないんだ。

ホランダーはそんなふうに言いながら途中になっていた作業を再開すると、北条への愚痴を次から次へと並べ立てる。どうやらそれが作業のBGMか何かになっているらしい。

ジェネシスはそんなホランダーの姿を眺めながら、そっと息をついた。

セフィロスには持病があり、それが悪化をしているようだから助けてやってほしい。そんな依頼をされてそれほど考えもせずにOKを出したのはやはり不味かったのだろうか。

セフィロスのことは戦友として、親友として、とても尊敬している。

それに―――――――正直、好きだと思っていた。

だから、多分すぐにOKを出せたのだ。

しかしセフィロスの中にある“何か”に触れて、ジェネシスも色々と考えざるを得ない状況になってしまったものである。それは別に、セフィロスの病気についてというわけではない。そうではなくて、そういうセフィロスにそれでも惹かれている自分について、である。

あの時―――――。

本当は、殺せなんて言わなくても良かったのだ。

しかし、セフィロスの幸せがそこにあるのならば、そしてそれを提供できるのが自分であるならば、それでも良いのだろうと思ったのである。

他の誰かの命で悦楽を得るくらいなら、自分の命を捧げたい。

そう思った自分は、果たしてセフィロスのことを病気だなどと言えるのだろうか。

きっと、自分こそ病的なのだと思う。

ジェネシスはひっそりとそう思いながら、己の首筋にそっと手を当てた。

あの時絞められた首は自分のものではなくて偽者の首だった。しかしもし本当に自分の首を絞められていたとしたら――――――自分は命を乞うたろうか。

いや、きっとしなかった。

だってそれは本望に違いないのだから。

「お前に殺されるならば…最高の快楽になるのかもしれない」

セフィロスの快楽がそこにあるように、きっと自分の快楽もそこにある。

ジェネシスはそんなことを思いながら、そっと、自分の首から手を離した。

 

 

 

 

 

最高の快楽は、とっておこう。

 

 

 

 

END

 

 

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