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Rankz ls "murder" -----------------------------------
手をかける瞬間――――――人を殺す、その瞬間。 思えばいつも、それを感じていた。
あの瞬間、怖いだとか可愛そうだとか、そういう気持ちのまるで起こらないことは不思議だったが、ともかく一つ、非常なエロスだけは感じていた。 気がおかしいのではないかと、人は言うだろう。 しかしその瞬間の悦楽は何にも変えがたかった。少なくともセフィロスにはそうだったのである。 とはいえその悦楽は、相手が屍になってしまえば煙のように消失してしまい、長々とセフィロスに快楽を与えてくれはしない。何しろそう、手を掛ければ人はすぐにも事切れてしまうのだから。 だからそれはセフィロスにとって、永遠には手に入らない、実に瞬間的な、しかし最高の快楽だった。
ウータイ戦争で実質的な活躍をしていなかったセフィロスは、名前ばかりが取り沙汰される現実に飽き飽きしているところだった。 もし実際にウータイ戦争でA隊として動けるなら、大義名分の元に人を殺せる。つまりあの瞬間的な快楽を存分に手に入れられるのだ。そういった気持ちがあったから、散々A隊にと立候補したのに、ラザードはそれを了承しなかった。 正直、フラストレーションが溜まっている。 セフィロスはそう思っていた。 そして、そのフラストレーションを解消するには快楽が必要だとも思っていた。 快楽は、性的なものでも埋めることは可能である。しかし、性的な快楽はどうも本質的なオーガズムをセフィロスに与えないようだった。 欲しいのは――――――――もっと強烈な快楽。 セフィロスはその快楽の意味を既に理解していたが、それは周囲に理解されない類のものと分かっているから口には出さなかった。 とはいえ、どうやらあの憎き北条だけはそれを理解しているらしい。犯罪者や裏切者の処刑の介錯としてセフィロスが呼ばれるとき、彼は必ずセフィロスをみてニヤニヤしていた。楽しいだろう、とでも問いたげに。 そういう北条の勘は、ある日セフィロスに喜びを齎した。 ホランダーの研究失敗作について、処分してほしいという依頼がきたのである。そんなことをいちいちやらせる気か、と、正直セフィロスはそう思っていたものだが、実際にその場に赴いてみて驚いてしまった。 “さあ、これらを処分してくれ” “これは……” 小汚いホランダーの研究所の奥に積み重ねられていたのは人間だった。いや、人間の形をしたものだった。しかもそれは……。
「ジェネシス」 ――――――友であるジェネシスの顔と、体を、している。
セフィロスにとってその人形を処分することは、つまり手を下すことは、最早ただの快楽ではなかった。何しろその顔は、体は、友の姿をしているである。それに手をかけることは即ち、友を手にかけるのと同様だった。 が、しかし。 頼まれたのだから仕方が無いと思いながら殺し続けたそのジェネシスの人形たちは、死に際に必ず命を乞うた。しかもそれはとても人形とは思えないほどの精巧な表情で。
何故だ? 俺を殺すのか? やめろ、セフィロス。
そう言われながら殺し続ける。血が飛び散り、セフィロスの肌にびちゃっ、とかかった。それでも尚殺し続ける。そうしていくと、不思議と最後にはそれが快感になった。それを発見した時、セフィロスは己のことを恐ろしいと思わずにはおれなかったものである。友を殺し、それが快楽に?…信じられない。 その快楽は、まるでセフィロスの為に設けられているかのように何度も続いた。つまり、そういう処分の機会が何度となくセフィロスに与えられたのである。 恐ろしい快感。 それは背徳感と共にセフィロスの心の中に侵入する。 当初それは性的快楽とはまるで別のものだったが、時が経つにつれ、セフィロスは段々と混同していった。いや、混同するというよりも、混同させることが可能になったといった方が正しいだろうか。 縋る友を引き剥がし、その息の根を止める瞬間――――それを深く想起することによって性的興奮を呼び覚ますことができるようになったのである。それは日常的には無用な感覚だったが、それを想起しながらのセックスは別格にセフィロスを借りたたせた。一種の興奮剤とでもいおうか。 誰とセックスを重ねようとも、常に脳裏にはあの瞬間的快楽を思い描いている。そこにいるのは目の前の娼婦でもなければ健気に自分を慕って身体を明け渡してくる下等兵士でもない。そう、そこにいるのはただ一人、己が友――――――ジェネシス。 そのように、目の前にある現実と脳裏にある空想との間に随分なギャップがあったセフィロスのセックスは、やがて相手に不安と不満を募らせていったものである。元々セフィロスの性行為は甘い愛など必要としないものだったが、それでも肌を重ね合わせる相手というのはそういう機微を敏感に察知してしまうものらしい、完璧な心のズレを承知して、やがてセフィロスから離れていった。 もう貴方とは寝ない。 一体どこに心を馳せているの。 こっちを見て。 ちゃんと目の前にいるのだから。 何度かそんな言葉を吐かれたが、セフィロスはそのどれも受け入れはしなかった。というより出来なかった。 今までであれば、甘い囁きこそないものの、まあ目前の情事に集中しようという気持ちにならないでもなかったのだが、今はもうそんなふうにはできない。何しろ脳を占めるのは、もっと根本的な、中枢を支配する快楽なのだから。 とはいえ、その快楽を得続けるためには、ホランダーの失敗作を手にかけるか、さもなくば誰かの身体を犠牲にした性行為が必要だった。自慰行為でも構わないのかもしれないが、セフィロスはあまりそれを好まない。一番良いのはホランダーの失敗作が半永久的に増え続けることなのだろうが、さすがにそうはいかないらしかった。セフィロスが処分しているのはあくまで“失敗作”であって、成功したものについては手を下すわけにはいかない。ホランダーにとってみれば失敗作など出さないほうが良いのに決まっているのだから、これはセフィロスにとっては叶わぬ望みなのである。 だから―――――残るのは性的快楽。 しかし、相手がいない。 相手がいない?――――こんな馬鹿げた現実が今まで一度でもあったろうか。 否、今までこんな事態に陥ったことはなかった。いつだってセフィロスを求める人間は後を絶たず、だからセフィロスはいつも飽き飽きしていたくらいなのだから。 それなのに今、セフィロスはそれを必要としていた。 誰か。 誰かいないのか。 誰でも良い。 その身体を犠牲に出来る人間。 誰か、誰か、その身体を俺に捧げる人間はいないのか―――――――。 最早病的といってもおかしくないくらい、そんな考えにとりつかれた頃だった。とうとう、セフィロスに希望が見えたのである。いや、本来それは希望でも何でもなかったのだが、セフィロスにとってその考えは希望と同等の妙案だったのである。 そう、つまりは。 ――――――――求めているその人間を、抱けば良い。
なんて馬鹿げた妄想なのだろうか。 そう思った。 しかし、これほど欲求に素直な行動はないとも思った。
そうだ、その顔、その声、その身体。 それがあれば良い。 そしてその顔が苦痛に歪むその瞬間を見つめられれば、良い。
「ジェネシス。お前は自慰行為をするとき、どうしている?」 「なに…?」 「例えば――――誰かを犯す妄想でも?」 「…下らない。まさかセフィロスにそんな話を振られるとはな」 「そうか?――――俺はいつも思い描いている。お前を、な」 「……」
驚きでもなく、蔑みでもなく、何かを訴えようとしているような瞳。 その瞳が返しているのは決して否定ではない。 それは、肯定だ。
何故だ? 俺を殺すのか? やめろ、セフィロス。 ――――――あの人形たちはそう言って命を乞うた。 念願の“本物の身体”を手に入れたとき、セフィロスは無意識的にそれと同じ乞いを望んだものだが、どうやら現実はそんなふうに上手くいくものではないらしかった。 本物のジェネシスは、セフィロスに乞う様なことはしない。 脱ぐように指示をすれば自然と衣類を脱ぎ去るし、セフィロスの要求の大方には静かに従ったものである。それは、多くのサディスティックな人間にとっては自分のプライドを満たすような行動だったかもしれないが、セフィロスの場合はどうにも満足ができなかった。 こんな易々と服従されるくらいならば、何も告げずに強姦でもしておけば良かったと思う。そうすれば、少なくともジェネシスはこんなに静かに従うことはなかっただろう。少しは抵抗したのに違いない、何をするんだ、と驚いて。 折角本物の身体が、顔が、声が、こんなに近くにあるのに。 ああ、どうしたら満足できるのか。 せめて――――――――もっともがき苦しんでくれさえすれば。
「―――セフィロス」
ふっと、耳元でジェネシスの声が響いた。 思考の中に入り込んでいたセフィロスは、ジェネシスに覆いかぶさりその顔を直視しているような格好だったのにも関わらず、はっ、と我に返ったものである。 「…何を考えている?随分と気が漫ろだ」 「―――いや、別に」 何でも無い、そう言いながらジェネシスの上から退いたセフィロスは、ベットから折り去って、輸入物の煙草に火を点ける。もくもくと上がり始める煙にジェネシスが眉を潜めるのが見えたが、セフィロスは特に気にしなかった。そんなことよりも今は、ニコチンでせめてもの快楽感を得なければやっていられないという心境である。 「どうしたんだ、セフィロス。気が、乗らないのか」 「別に」 「相変わらず何も教えてはくれないか。少しは変わるかと思っていたのに」 ジェネシスの言葉に、セフィロスは返答しなかった。というよりも、返答したくなかった。面倒だったのだ、そういう会話の全てが。 本物のジェネシスの身体を手に入れてから、一ヶ月ほどは経っただろうか。 その間何度もセックスを重ね、何度も性的快楽は味わったが、それでもやはりあの最高の快楽には辿り付けなかった。本物の肉体を抱いても、その声で喘ぐのを耳にしても、やはりそれはあの絶命の瞬間には到底及ばない一般的な快楽でしかなかったのだ。 この一ヶ月でその事実を知ったセフィロスは、期待との大きなギャップに落胆せざるを得なかったものである。 それどころか、今はこんな面倒なことにさえなっているのだ。 そう、最高の快楽を手にいれようとした果てに出来上がってしまったこの関係…しかもそれは娼婦らとのそれとは違い、すぐに切り離せるようなものではないじめりとした生暖かい関係である。 戦いがあれば共に赴く。 傷つけば共に助け合う。 そもそもそういう位置にある友だったのだから当然だろう。 そういう関係を崩したのは、他でもないセフィロスの方なのである。 ジェネシスは今や、セフィロスとの関係を当然のもののように捉えて過ごしているらしく、面倒な女がよく口にするようなことを聞いてくることさえあった。この関係をどう思っているのか、これからどうなるのか、そういうことを声に出されると、セフィロスは決まって苛々してしまう。しかし苛々したところで、昔のように簡単に関係を切ることができないのだ。 とんだミスを犯したものだ。 そう思うと、セフィロスは心底自分を恨んだものである。 どうして一時的な感情に動かされて本物のジェネシスになぞ手を出してしまったのか。そんなことさえしなければ、今こんなふうに気だるい時間を過ごさずにも済んだものを。 「セフィロス」 最早、名前を呼ばれるそれすらも苛立たしい。 「セフィロス」 それでももう一度呼ばれると、セフィロスはあからさまに苛立った顔を向けながら煙草をもみ消した。そうしてジェネシスを一瞥し、帰る、と口にする。 「帰る、って…何を言ってるんだ、ここはお前の部屋だろう」 「どうでも良い。とにかく今日はもう気分が殺がれた」 「…そうか」 筋肉のついた肌に黒いコートを羽織ったセフィロスは、ばさり、と髪を振りまきながら身支度を完成させる。その姿をベットの中から見つめていたジェネシスは、特にセフィロスを引き止めるような言葉は口にしなかった。その代わり、その背中にこんな言葉を放つ。
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