「2ndの中から追加戦力を抜擢するならザックスにして欲しいってことです。共同作戦ならアンジールとも気心が知れてるし、何より一番やる気があるし」

「なるほど、確かにやる気だけは俺も認めよう。だが、実力的にはまだまだだ」

ウータイ戦は、生半可に臨めるものではない。

今迄散散こじれてきた戦いを、今度の追加戦力投入によって終結させようとしているのだからそれは尚更である。

そうなると、アンジールから見て実力的にまだまだであるザックスは少々心配の種ともいえよう。

それに、とアンジールは続ける。

「最終的な判断はラザード統括が下す。俺が何かを言うわけにはいかない」

「でもアンジールとの二人三脚だって事を考えれば、統括もアンジールの意見には耳を貸すんじゃないですかね?事実、アンジールの投入は“とっくの昔に決定済み”なわけだし」

そう言い切ったカンセルは、続けざまに、むしろ今は2ndの選出期間ってわけでしょう、とまで言った。

その言葉には、アンジールも苦笑せざるを得なかったものである。

何しろそう、それは合っていたのだから。

「全く、どこからそんな情報を仕入れてきたんだ?こっちが閉口するな」

「まあ情報通ですから」

アンジールは少し笑った。

しかしすぐにそれをかき消すと、落ち着いた声音でこんな事を言う。

「じゃあ逆に聞こうか。情報通のお前なら知ってるだろう?候補者にカンセルって名前が挙がってることを」

「知ってますよ」

「それでもザックスを押すのか?」

「勿論」

そんな事はとっくの昔に知っている。

自分の名前が挙がっていることなど。

でも。

「俺は、英雄になりたいわけじゃないんで良いんです。功績とかもそれほど気にしてないし」

「夢が無いな」

アンジールが厳しい口調でそう言うのを、カンセルはいつもの調子で交わしていく。夢はありますよ、だけどそういう場所にあるわけじゃない、ソルジャーである事とそれとは別問題です、と。夢や誇りと口煩いアンジールも、それが無いわけではないと言われては仕方が無い。ソルジャーであるその延長線上に必ずそれを求めねばならないかといえばそういうわけではないし、まあソルジャーである身の上ならば大方1stやら英雄やらを夢見る人間が多いというそれだけである。

そう、ザックスもそういう人間だった。

だからそれは、つまり競争率の高い狭き門である。

同じ場所を多くの人間が目指しているその中で、彼がそこに辿り着ける確率はそうそう高くは無い。それこそ運がなければ。そうして、アンジールの言う夢や誇りというものを正しく持ち続けなければ。

「俺にも夢や誇りを持てっていうなら、俺にとっての夢と誇りが何なのか教えますよ」

「何だ?」

興味程度には聴いておこう、そう言ったアンジールに、カンセルはきっぱりとこう言い切った。

「俺の馬鹿な友達の夢を叶えてやる事、それが俺の夢です。もしそれが叶ったら、そうできた事が俺の誇りになるんですけどね」

その鍵はあんたが握ってるんだと言わんばかりに。

 

 

 

おい、分かってるかザックス。

俺はお前みたいに表舞台には向かないから、お前に表舞台を作ってやるよ。

お前が嬉しそうに報告してくるときには、

俺は驚いて、笑って、

良かったな!

そう言ってやるからさ。

 

 

 

ザックスから1stになったとの報告を受けたのは、それからずっと後のことだった。

ウータイ戦が集結し、あと一段階あった後のことだったから、まあ時期としては仕方ないことだったのかもしれない。

ザックスはカンセルの思惑通りウータイ戦の追加戦力として召集され、アンジールと共にウータイへと向かっていったものである。そこでの功績は、情報通なカンセルの耳にはしっかりと届いており、心のファイリングはバッチリだった。しかしそれは残念なことに公式発表されることなく、あろうことかあのセフィロスの功績として世の中に広まっていった。

何でだ。

どうしてだ。

ザックスの功績なのに、どうして回りはセフィロスばかりを称えて疑うことをしないのだろうか。

それがカンセルには腹立たしかったが、しかしカンセルはそれについて周囲へ是正しようなどとは思わなかったし行動を起こすこともなかった。そういう大切な事を、自分は知っている。そしてザックス自身も知っているし、アンジールだって分かっているはずだ。盲目の周囲は報道通りセフィロスを称えるけれども、分からない奴には分からなくて良いのに違いない。どうせ、一介の2ndの活躍があってこその終結だと知らされたとして、そういう輩は返ってその真実を疑うのに違いないのだから。

そういう事実がありながらも、とにもかくにもザックスは1stへと昇進したのである。

しかし、そこには少し予想外なことが起こっていた。

そう、あれほど望んでいた1stを手に入れたはずのザックスが、それほど嬉々とした様子を見せていなかったのである。

一応のところ報告を受けたカンセルは、その報告時のザックスの様子があまりにも予想外だったものだから思わず拍子抜けしてしまった。とはいってもまあ仕方ないかもしれない、何せそれはアンジールが行方知れずになった後のことだったのだから。

つまり、1stの欠落による緊急昇進のようなものである。

勿論その裏にザックスの活躍があったことは確かだったが。

「俺、1stになったけど…何でかな、あんまり嬉しくないんだ。あんなに成りたかった1stなのに」

おかしいよな、そう言って笑ったザックスは何だか少し遠くなったように思えた。

ソルジャーフロアでいつものように立ち話などをする。

相変わらず覆面状態のカンセルに対して、ザックスはすっかりと表情を露にしており、それは何だか疲れているようにさえ思えた。

ちょっと変わったな、何となくそう感じる。

「アンジールが行方知れずになって…あ、これ極秘だった!ってもお前だったら知ってるだろ、カンセル?」

「ああ、まあな」

「俺、アンジールを探す事になりそうだ。何だか良く分からないけど、何かすごいことが起きてるみたいでさ。今迄ずっとアンジールと訓練なんかやってきた俺にとっちゃ、何だか絵空事みたいな気分だ。実感がないってか…」

「ああ」

ザックスは1stを手に入れたと同時に、その他の大切なものを失っていた。

それはアンジールの存在や、そして今までの平和な生活である。

2ndのままであれば知らなくて良かった事も、1stとなれば重要任務に就く必要柄必然的にそれを知るはめになる。しかもそれは生半可な内容ではないのだ。

裏事情に詳しいカンセルは、そういう事情をファイリングする度に勿論色んなことを考えたものだが、彼の場合はそれらの事実に対してそこまで感情を込めることはなかったものである。何故ならそれは、一番近い人間のことではなかったから。

しかし今――――――――今のザックスにとっては。

とても近い存在が、その渦の中に位置しているのだ。

アンジールという名の、その存在が。

「だけど、仕方ないよな。俺は全力でアンジールを探すしかない。だってアンジールのおかげで俺は1stって夢を手に入れられた。勿論俺の本当の夢はそんなんじゃなくて英雄になることだけどな」

「ああ。うん、そうだな」

カンセルは、ザックスの言葉に戸惑ったようにしながらも、頷く。

覆面状態のカンセルの表情は、きっとザックスには伝わってはいないだろう。言葉だけならばきっぱりとした口調が板についているから、誰も何も思わない。きっとずっと近くにいたザックスでさえ気付かないだろう。

―――――――――アンジールのおかげで、か。

「なれるよ、お前なら」

カンセルはもう一度そうだよな、と口にすると続けてそんなふうに言う。

きっと、これで良いのだろう。

ザックスに夢や誇りを大切にしろと訴え続けてきたのは、その精神を教えたのは、アンジールその人である。その人から受け取った精神を支えに、ザックスはこれからもずっと躍進し続けるのだ。

カンセルはそんなふうに思うと、頑張れよ、と締めくくった。

ソルジャー部門は現実大変な状況に陥っており、その渦中にザックスは放り込まれたも同然の状況である。それはアンジールとの接点があったという理由も勿論あろうが、アンジールによって1st昇進を遂げたという事実も当然関わってくる。1stでなければそこまでの重要任務の全容を知らされることなどないから、ザックスがそれを知っているということはそれが確実であるという証拠だろう。

1stになったから―――――そう言うのであれば。

そういう現状にザックスを追いやった原因の一部には、自分も含まれるということだろう。ザックスは知りもしないだろうし、未だにそれをアンジールの口添えの為だと思っているのだろうが、大元といえば少し違ってくる。

喜んで欲しかっただけなのに、夢を叶えて欲しかっただけなのに、それはこうして悲しい現実を突きつけるに至ってしまった。

―――――だから。

「夢は此処で終わりじゃないもんな。ザックスが英雄になった暁には、でかいプレゼントしてやるよ」

もっともっと歩き続けて、本当の夢を叶えて欲しい。

どれほど大きな悲しい現実でもそれを突き抜けたその後には、曇り空も晴れ渡るはずだから。

「お、久々に来たなソレ。何をくれるんだ?」

少し弾んでそう言ったザックスに、カンセルはうーん、とわざと唸り、最終的にはこう言った。

「やっぱり、愛?」

「またそれか!聞き飽きたっての!」

ザックスは見た目にも分かるほどにわざとらしく肩を落とすと、おまけにでかいため息まで吐き出したりする。それを見てカンセルは思わずははは、と笑う。

「じゃあコスタデルソル往復分にしてやるよ。今度はケチじゃないだろ?」

「ケチだって!だって英雄になったらそんなの行き放題じゃんか」

「あ、そっか」

カンセルはそれもそうだな、じゃあ何にしようかな、と悩むポーズを仕出した。

アレがいいかな、これがいいかな。

そう口に出して呟いてみるもののどれもパッとしなくて、ザックスは駄目だこりゃ、と両手を上げたりする。

そんな軽い会話をする中で、カンセルは心の中だけでひっそりと考えていた。

―――――お前が本当に英雄になったら、もうプレゼントなんて出来ないかもな、と。

そうなるとしたら、そうなった頃にはもう、自分に出来ることなど何も無くなってしまうだろう。情報通で知られるカンセルでも、1stの持つ最新の極秘情報までは分からないし現場で掴むようなレアな 情報などは入手しようがない。

自分がザックスの為に出来ることは、きっとこれから限られていく。

ザックスが夢の階段を1つ1つ上っていくたびに、きっと少しづつ何かが無くなってしまうのだ。ザックスが1stを手にして何かを失ったように、それはカンセルも同じことなのである。

そうなった時、それでも出来ることといえばそれは何だろうか。

きっとそれは――――――プレゼントでもなんでもないことでしかないんだろう。

「あ、そうだ!」

ふと、ザックスが何かを思い出したようにそう叫ぶ。

その内容はといえば。

 

 

 

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