Present

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「おーい、元気かあ」

空を見上げて、そう呼びかけてみる。

だけれど返ってくる声なんて無くて、空は真っ青に広がってるばっかりで。

「約束破んのも大概にしろよー、調子ばっかり良いんだから」

アイツはそういう奴だった。

お調子もので気さくで、何でも気前良く引き受ける割に結局約束を守らない。嘘つきは泥棒の始まりだって知ってるだろう?

だけど、ああ、そうだな。

アイツを憎めないんだ。

今でさえ、憎めないよ。

 

 

 

 

 

「先に1stになるのは絶対俺だぜ」

「はいはい、もう聞き飽きたって」

ソルジャーフロアでスクワットをしながらそう意気込むのはザックスの癖だった。

平日真昼間からソルジャーフロアでスクワットなぞする暇があるソルジャーがどうやって1stに上るんだか、と思わないでもなかったが、それは既に口癖の一つだったので、カンセルは特に気に留める事など無かった。

この台詞が出ると、大体続きはこうである。

「なあなあ、俺が1stになったらお前、何くれる?」

「愛をやるよ、愛」

愛を込めておめでとうって拍手してやるよ、と、これもまたいつもの切り返しをするカンセルに、ザックスはワザとらしいため息なぞを吐く。

「もうそれ聞き飽きた。何か他のネタにしてくれよ」

「じゃあ…奮発してコスタデルソル片道切符」

「何で片道切符なんだよ?」

「節約だよ、節約」

ケチ!と叫ぶザックスに、カンセルはハハハ、と笑う。

別段こういう会話は本気ではない、1stになるというのだって功績がなければ期待もできないし、その肝心の功績というのは2sdのソルジャーとしてはなかなか上げる舞台のないものである。そもそも神羅は肝心な任務に関して1stを起用するのだから、大抜擢で重い任務につかない限りはなかなかそういうわけにはいかないのだ。

だから、これはちょっとした夢の話。

もしそうなったら、という「IF」の話。

「因みに俺が先に1stになったら、お前は何してくれる?」

シュ、シュ、と相変わらず何が楽しいのだか分からないスクワットを続けているザックスに、カンセルはそんな事を問う。

思えば、いつもこの会話は「ザックスが1stになったら」という部分だけで終わってしまっていて反対の場合を話したことが無かった。

問われたザックスは、うーん、と少し唸ったりする。

そして。

「やっぱり愛かな?」

「それ俺のネタだから!」

「あはは、やっぱ使い回しは駄目?」

からっと笑うザックスに、カンセルは笑いながらため息を吐く。

まあ、別に何かをくれと望んでいるわけではない。これは単なる「IF」の話だし、現実的に目指すところであるとはいえ現状では現実的ではない話の一つである。

こんな話をしていられるだけ幸せだ、そうカンセルはひっそりと思った。

 

 

 

情報通のカンセルは、常日頃から多くのネタを掴んでいた。

それは会社の裏事情からソルジャーの愚痴まで結構に幅広い。

気にしない人間にはまるで気にならないような小さなネタまで小耳に挟んでは心にファイリングしていたカンセルは、その日も小さなネタをファイリングする事になった。

あまりにも身近なネタ。

そのネタは、ザックスのネタで。

「よう、カンセル。ザックスの奴、またアンジールと特訓中なんだって?」

そう声をかけてきたのは同じ2sdのソルジャーで、勿論カンセルともザックスとも友達のソルジャーである。厚ぼったい頭部装備を纏ったその男は、今正に任務から帰ってきたというように外の匂いを纏っていた。

「最近頻繁らしいじゃん。どうなってんの、あいつ?」

「それはザックスの希望だ。あいつ、干されてるから」

なるほど、と納得したソルジャーは、近くになったパイプ式チェアーにドサリと腰をかけると、肩をボキボキ鳴らしながらふう、とため息を付く。

「最近こぞってソルジャーが行方不明になってる事件、お前だったら知ってるだろ?」

カンセルは、ああ、と頷く。

その情報は既にファイリング済みである、ある一人の1stが行方不明になったのをきっかけとして、それに同行していた他のソルジャーも大量に行方知れずになってしまったのである。今のところ公式発表ではないが、一部のソルジャーはその情報を既に知っており、只ならぬものがあることを察知しているという具合。

尤も、知らない人間はやはりこの事実を知りはしないのだが。

「あの事件のおかげでソルジャーが足りないんだと。で、俺らもウータイ戦に借り出されるかもしれないって。その功績次第では1stも夢じゃないんじゃないかって噂だぜ」

「夢の1stゲットってわけだな」

ソルジャーの伝えるそれがどこまで信憑性のあることなのだかは分からないが、数年前から延長続きであるウータイ戦の終結に一役買えば、勿論それも夢ではないだろう。1stになりたいと願うなら、願ってもみないチャンスというわけだ。

「1st、ねえ」

カンセルは、自身もパイプ式のチェアーにドサリと座り込むと、脇に座っているソルジャーを見遣って「お前志願するのか?」と問う。

問われたソルジャーの回答は、勿論YESだった。

まあ当然だろうか、大体の2ndは1stを狙っているものである。

しかし、カンセルはそうではなかった。

まあ成れるものなら成ってみたいという気持ちはあるが、かといってガツガツとそれを狙おうとは思わない。順風満帆、それで良い。

「俺はぼちぼちやってくんで良いわ。そういうのはザックスに話してやると最高に喜ぶと思うけどな」

カンセルがそう言うと、脇にいたソルジャーは突如真剣になってそこだよ、そこ!と意気込んだ。一体なんだろうかと思ってしまう。

しかしそれはどうやら、こういう事情だったらしい。

「問題はザックスだよ!あいつ情報ってモンを知らないだろ?だから分かってないと思うけど、俺にとっちゃダークホースなんだよアイツは」

「ダークホース?」

そう!、とソルジャーは頷く。

「あいつさ、俺らに比べてミッション率低いだろ?いつも訓練訓練って…だけどあいつだけじゃねえか、1stと直に繋がってんの。1stが直々にべっとり訓練に付き合うなんて特待だと思わねえ?」

「ああ…そういう事か」

なるほど、彼はアンジールの事を言っているのだ。

ザックスは確かにミッション率が極端に低い。それどころかミッションに関するいろはなどカンセルが全て教えたようなものである。

しかし訓練という部分に関してはザックスが一番好条件でこなしているわけで、その好条件というのがアンジールという1stのソルジャーの存在なのだ。

アンジールとザックスは仲が良い。

勿論それが昇進に繋がっているわけではないが、しかしまるで1stと繋がりを持たないソルジャーからすればそれは大分羨ましい状況なのである。

「俺らの方がミッションこなしてるってのに、あいつは別のところで特待を受けてる。さっき言った噂だってミッション率の高い現場慣れした奴が召集受けるのが道理だろうけど、なんとなく最近のアイツの特訓振り見てるとさ…」

「ザックスが召集されるんじゃないか、って事か」

そのものズバリをカンセルが口にすると、相手は返答をする代わりに重いため息をついた。まだ何も決まってもいないというのに、現状で既に余程悔しいのだろう。まあそれだけ1stを狙っているからそう思うのであろうが、逆にそれほど1stに憧憬していないカンセルにはそれはあまり分からない気持ちだった。

そもそも、実際に誰かが召集されるかどうかもまだ噂の範疇なのである。

見切り発車もいいところだ。

「ま、なるようになるって。そういうのは運に任せろよ」

カンセルはすっと立ち上がると、そう一言残してその場を去っていった。

軽く手を上げながら。

 

 

 

“なあなあ、俺が1stになったらお前、何くれる?”

 

まったくザックスは。

まずは1stになんなきゃ話になんないだろ?

仕方ないから、親切な俺が事前にプレゼントをやるよ。

 

“愛をやるよ、愛”

 

ミスなんかしないで、しっかり受け取れよな。

 

 

 

いつもザックスとアンジールが訓練に使っているトレーニングルームは百も承知だった。

先ほどのソルジャーの言葉を聞いて迷いなくそこに向かったのはどういう了見だったのか…その時にはあまり良く分からなかったものだが、思えばそれはカンセルの情報通がそうさせたのかもしれない。

実のところ、ああいうネタはずっと前からファイリング済みだった。

ザックスは特待だと口にするソルジャー仲間。

アイツが羨ましいと口にするソルジャー仲間。

皆ザックスとは友達であり仲も良い、しかし彼らは常日頃からそういう気持ちをも潜伏させており、それはザックスに対する攻撃にはならないとしても、目的に向かう上では当然敵対心を産むものではあった。

ザックスはどちらかというと情報にも疎いし目的一直線になるとまるで周りが見えなくなってしまう質だから、まさかそんなふうに思われているだなんて夢にも思っていないだろう。皆誰しもが1stを望んでおり、そのためにそれぞれが頑張っているとしか思っていないに違いない。

だけれど現実には、そういった羨望や嫉妬というのが少なからず存在しているのである。

しかもそれは実績などではなく、アンジールと仲が良いというそれだけで。

そういう気持ちは、一般的な感情としてはカンセルにも分からないでもなかったが、しかしそこでそれを愚痴るというのは何となく納得がいかなかった。

だって、ザックスは周りをそういうふうに見てはいない。

あくまで自分を磨いて実績を作り、順当な方法で上に行こうとしている。

それに比べてアイツラは何だ?

僻みばかり口にして、だったら自分も1stと仲良くなれば良いじゃないか、と思う。

「そんな1stじゃあ神羅もガッカリだもんな」

カンセルはそう呟きながらも、ザックス御用達のトレーニングルームに足を運んだ。そうしてそのドアの前に立つと、特別錠もされていないその部屋の中へすっと入っていく。

するとそこには、ある人物が居た。

――――――予定通り。

カンセルは心の中でそう頷くと、カツカツとその人物へと近づいていく。

一方その人物の方はといえば、突如として現れた、しかも予定外のカンセルに、大層驚いたような表情を浮かべていた。一体何故こんなところに、と問いたげな顔である。

「お疲れ様です。ちょっと話が」

至近距離といえるところまで来てピタリと動きを止めたカンセルは、目前で驚いているままの人物に向かって早々に話を切り出した。

別に世間話をしに来たわけじゃない。

ちゃんと目的があるから、淀みなどは一切無い。

伝えたいことは唯一つ―――――――そう、唯一つだけだ。

 

「ウータイ戦の追加戦力に、ザックスを連れてってやってください」

 

カンセルのその言葉は、トレーニングルームに響き渡る。

はっきりとした口調で告げられたそれは嘆願でありながらも強い口調で放たれており、そうされた相手の方は幾分か困ったような表情を浮かべていた。

それは―――――アンジール、である。

アンジールは困ったような表情をそのままに、

「一体それはどこから舞い込んだ情報だ?」

そんなことを口にする。

アンジールがそう口にするのも当然だろう、何せそれはまだ何も決まっていない事柄なのだから。いや、“決まっていないことになっている”事柄なのだから。

しかし、カンセルには分かっていた。

情報通だからこそ知っていたのである。

あの2ndのソルジャーが口にした本決まりではない事柄などは小さなネタに過ぎない。がしかし、カンセルが知っていたネタはそれよりかは少し大きなネタだったのである。

そう――――――追加戦力としてアンジールが投入される事。

それが決定事項であることを、カンセルは既にファイリングしていたのである。

「俺は情報通なんで。アンジールが追加戦力として現地入りすることは既知ってわけです」

「なるほど。でも何故ザックスを?」

確かザックスとお前は仲が良かったな、と追加したアンジールに、カンセルは特に何も答えなかった。

確かにカンセルはザックスと仲が良いが、それを言うならアンジールとて同じことである。そうして今、カンセルはザックスと仲が良いが為にザックスを信じてこうした行動を起こしているわけで、だったらばアンジールも同じように行動を起こして欲しいとカンセルは思っていた。

勿論、それは勝手な言い分である。

それは分かっている。

しかし、誰しも自分にしか出来ない事柄というものが存在するのだ。

カンセルがザックスの為に何かを出来るとすればそれは情報提供と、そしてこうした行動くらいである。どんなに頑張っても、アンジールでしか出来ない事をカンセルが代わりに果たすことはできないのだ。

だから、こうして行動を起こしたのである。

アンジールにしか出来ないことを、してもらう為に。

 

 

 

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