-ひだり-

-------------------------

 

 

 

「はい、お客さん。撮りますよ〜」

「あ、ちょっと待った!俺の位置どうなってる?」

「は?位置?どうって真ん中に…」

「あーダメダメ。俺は右側に納めて、左側は空けといて」

パシャ!

写真を撮る。

出来上がった写真は、左側がぽかんと開いているバランスの悪い写真だった。

 

 

 

 

 

縦約20センチ、横約30センチの長方形。

縁にはガッチリとメッキのフレームがついていて、中には何かを収納できるようになっている。こういう形状をしているものを知っている。

「フォトフレームか??」

長方形を右に動かしたり左に動かしたりしながら、首を傾げてそう言ったのはザックスだった。彼は、つい昨日自分宛に届いたこの長方形に大きな疑問を抱いている。もしかしたらこれは誰かからの熱いメッセージだろうか。よもや愛の告白?

そんな妄想を抱きつつも口に出すことはしなかったザックスに、脇にいたカンセルがぴしゃりと訂正した。

「違うって。ザックス、お前知らないのかよ。そりゃ間違っても女の子からのプレゼントじゃないぞ」

「え!違うのかよ!?」

ちぇ〜残念!、とガックリ肩を落としたザックスは、それじゃあ興味もないといわんばかりに長方形を放り出す。それを上手い具合にキャッチしたカンセルは、やはりそれを右に回したり左に回したりしながらニシシと笑った。

「こりゃ正真正銘、神羅からのプレゼントだ。大体フォトフレームにしちゃデカいだろ」

「あ、そう言われればそうかも」

「だろ?これは写真じゃなくって証書を入れるための額縁だよ」

カンセルの説明によれば、その長方形改め額縁は兵士全員に配布されるものらしい。兵士に課せられた試験だとかテストだとかには、それぞれ認定証のようなものが用意されている。その認定証は少し特殊で、通常よりも小さなサイズで作られているらしいのだ。そのサイズこそが20センチ×30センチ。

つまりその額縁は、認定証などの証書を得たときにそれを収めるために存在しているのである。神羅からすれば、それを使え…つまり収められるようなものを得よ、ということなのだろう。

「なんだよ、つまんねえ!そんなさ、いちいち額縁になんか入れて飾らないっての」

文句を垂れるザックスに、カンセルは可笑しそうに笑った。確かにそうだ、と同意しながら。

「まあ良いじゃんか。くれるんだから貰っとけばさ」

「そりゃまあそうだけど…――――――あ!」

その時、ザックスが何か閃いたように声を上げた。

ザックスは何かとんでもなく良いことがあったかのようにパッと顔を明るくさせ、そうしてカンセルに言った。声を弾ませながら。

「なあ、カンセル!これ、フォトフレームにしちゃおうぜ!」

 

 

 

神羅の君臨のせいか、世の中はとてつもなくハイテクになっていた。

様々なデータがコンピュータで管理され、配給される携帯では仮想空間すら作り出せる。どこをどうしたらそんなことが出来るのだか原理の分からないザックスにはちんぷんかんぷんだったが、生活する分にはただ便利だなあというのが感想で、さしたる問題は皆無である。

しかし、そんな進化の中にあっても何故か進化しないものも存在していた。いや、大きな括りとしては勿論進化しているのだろうが、生活の上では進化していないといった方が正しいだろうか。

それは、写真である。

世の中には多くの美麗写真が存在しているが、それは大方プロの写真家の仕事だった。故に、撮影の機械も彼らが所有しているだけで一般人はそれを持ってはいない。世の中には勿論流通があったが、高値だし、それほど必要ともしていないから、大方の人間はそれを自分で撮ることができないのである。

ザックスにとって、写真など興味もないし撮りたいとも思わない部類のものだった。だから写真なんていうものは持っていない。今までの人生で撮った写真といえば、神羅入社のときの証明用写真くらいである。

「せっかく写真撮るんだから、やっぱり正装しないとな」

神羅がくれた額縁をフォトフレームにしてしまおう、というかくも大胆かつ意味不明な提案をしたザックスは、まずはそれに入れる用の写真を撮ろうと提案した。これを聞いたカンセルが呆れたのは言うまでもない。

普通は逆だろう。

写真があるからフォトフレームを使用するのであって、フォトフレームがあるから写真を撮るのではない。全く逆である。

しかしまあザックスの提案も悪くはないかな、と思っていたカンセルは、その提案に乗ることにした。元々あの額縁を額縁として利用することなど考えていなかったし、カンセルにとっては認定証だとか、そもそも認定されること自体どうでも良いことだったから、これはある意味合理的な提案だといえるだろう。

「どうせ撮るんだったら多いほうが良いよな。俺とカンセルと…そうそう、セバスチャンとエッサイも誘おっか」

「良いけどさ…あいつらOKするかな?」

「するする!ってか、させる!だって全員で撮ったら思い出にもなるじゃん。集合写真ってことで良いだろ」

「はいはい、分かった分かった」

ザックスの提案で、フォトフレームに収めるための写真は四人で撮ることになった。

メンバーは、ザックス、カンセル、セバスチャン、エッサイの四人。

ザックスとカンセルは入社以来の友達で、もうそこそこ長い付き合いになる。セバスチャンとエッサイは、ザックスがある任務で一緒になったのがキッカケで仲良くなったので、どちらかといえばザックスの友人という感じだった。それでも同じ兵士仲間だし、カンセルは元来情報通で人見知りをしないタイプだったから、ザックスの連れてくる友人とは大概仲良し状態になっているという具合。だから今では四人共通の友達である。

「へえ、面白そうだな」

「その話、のった!」

気の良いセバスチャンとエッサイは、ザックスの妙な提案にOKをしてくれた。その上、正装で撮るという部分にも大いに賛成してくれたものである。類は友を呼ぶというのは本当なんだな、とカンセルが思ったのは言うまでもない。

しかし此処に一つの問題が存在していた。

それは、誰も礼服をもっていないという部分である。これはあまりにも大きい。

神羅入社のときでさえ正装ではなかったし、普段は兵士の仕事をしているものだからそのような服の用意もない。これでは正装で撮影という夢が叶えられなくなってしまう。

しかし、世の中にはうまいことザックスの提案に乗ってくれるものが存在していたのだ。そう、貸衣装屋である。貸衣装屋はドレスからタキシードまで何でも色々なものを取り揃えている衣装のレンタル店だが、さして流行る商売でもないのに俄然存在しているところを見ると、やはり需要自体は存在しているらしい。

今の今までこんなものには微塵も世話になる機会がなかった四人だが、写真を撮ろうとなったその当日、彼らはとうとう人生初の体験をするに至った。

鍛えた体には少し窮屈な感じの、ぴっちりしたタキシード。

胸には蝶ネクタイを締め、写真に写るかどうかも微妙なのにカフスとタイピンまでしっかりつける。極めつけには胸ポケットから気障なハンカチーフまでチラつかせた。

タキシードを着る前に散髪屋で整えておいた髪型は、四人が四人共ピシッとしていて、初めて見る人間だったらば、一体どこの御曹司が来たのかと思わせるほどである。とはいえ、態度と口調がそれをしっかり裏切っていたが。

「へ〜なかなか似合うじゃん」

等身大の鏡の前で、右を向いたり左を向いたりしながら自分チェックを続けるザックスは、満更でもないという気分になっていた。手に剣が無いといまいち気持ちがシャキッとしないが、さすがに体裁を整えるとそれなりには見えるというものである。

「タキシードって何か窮屈だな。動きづらいぜ」

「本当にな。でもま、最初で最後のことだしな」

セバスチャンとエッサイがそんな会話をしているのを耳に挟んだザックスは、どこぞの御曹司よろしくこんなことを言う。

「おいおい、君たち。ちょい待ちたまえ。最初で最後ってのは聞き捨てならないな。これはもう恒例にするぞ、毎年恒例!」

「はあ!?毎年!?」

「マジかよ!?」

その突然の提案に、セバスチャンとエッサイはあんぐりと口を開ける。

ザックスはそれを見ながら、ニヤニヤと笑う。…不吉である。

「良〜いじゃん!毎年撮ってさ、自分年鑑とか作るの。こんだけ成長したぜ、みたいなさ。面白くねえ?な、カンセルもそう思うよな?」

「いやー…まあ、そうかもしれないけど」

「だろ!?ほら、やっぱ恒例にしようぜ!な!」

同意とも言い切れないカンセルの言葉を前向きに捉えたザックスは、すっかり一人で盛り上がり、来年はこんな服を着て、それで再来年は…などと計画を練り始めている。

「全く…」

セバスチャンとエッサイ、そしてカンセルは、そんなザックスを見てため息をつきつつも、最終的には仕方なさそうに笑った。いきなりの提案でビックリしたし、ザックスの言い分は滅茶苦茶な気がしないでもないけれど、それでもまあ悪くは無い。きっと思い出になるし、年に一度くらいの窮屈だったら問題は無い。

毎年撮り続けたら、きっといつかはおじいさんになってしまうだろう。

そんな時が来るなんて想像もできないけれど、それでもいつかはやってくる。

そうなったとき、写真を見て笑いあえるならば、それもそれで幸せなことだろう。

そんなふうに納得した三人と、提案者のザックスは、とうとうその記念となる一枚目の写真を撮ることとなった。いつもだったらソルジャー服に身を包み大股で歩き進むところを、今日は紳士のようにカツカツと歩く。

ミッドガルにある写真屋は、チョビヒゲのオヤジが経営していた。

チョビヒゲオヤジは経営者であると共に写真家であり、ご自慢の作品を額縁に入れては綺麗に壁に並べている。そのどれもが絶妙なショットで、写真の良し悪しなどイマイチ分からないザックス達にも、ああ、これは良いな、と思わせるものがあった。

そんな写真屋の中で、四人が肩を並べる。

「はい、じゃあ撮りますよー。ああ、そこ。君、君。緊張した顔はつまらないよ。もっとナチュラルにね。そうそう。はい、じゃあ行きますよー」

パシャ!

三脚で固定された撮影機が、タキシード姿の四人を焼き付ける。

眩しくて一瞬目を瞑ってしまったザックスは、大丈夫だったかな、と仕切りに気にしていたが、どうやら撮るのは一枚ではなく数枚であるらしく、その後はしっかりと目を開いていた。

向かって左から、セバスチャン、エッサイ、ザックス、カンセル。

緊張するなと言われなるべく筋肉を緩ませたつもりだったが、出来上がった写真は残念ながらやはりどこか緊張気味に見えた。しかし、これこそが記念の一枚目である。

「ははは!エッサイ、すげー緊張してやんの!」

「うるさいな!だって仕方ないだろ!」

顔を赤くさせて反論したエッサイは、確かにカチコチの石のようにギュムッと口をへの字に結んで写っていた。まるでこれから上司に怒られにいくかのようである。とはいえ、まあ他の三人も似たり寄ったりではある。その中でも一番普段に近いのはザックスだった。さすがは提案者というべきだろうか。

「よっし!これで記念第一号ができたぞ!」

ザックスは、神羅から貰った額縁に記念すべき第一号である写真をきっちりと収めた。これでもう長方形はすっかりフォトフレームである。

カンセル、エッサイ、セバスチャンも、同じように額縁をフォトフレームにして、部屋の隅っこに飾った。エッサイとセバスチャンの場合は同室に暮らしていたから、一つの部屋に同じ写真が二つあるという摩訶不思議な状態に陥ったが、これもまあ面白いよな、と笑っていたものである。

部屋の隅に、初めての写真。

正装した、緊張気味のソルジャークラス3rd達。

 

 

 

その翌年のことである。

四人は約束どおり、ミッドガルの貸衣装屋で衣装をレンタルし、ミッドガルの写真屋で写真を撮った。

昨年ザックスが計画を練っていた通り…というわけでもなかったが、今年は少し趣向を変えて面白い格好をしようということになったから、タキシードではないものを着用したものである。当初危惧していた窮屈は無かったものの、今度はいかにもラフすぎる。

何故ってそれは…。

 

 

 

back next