トンベリと一緒
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 アバランチ・捕虜収容所―――――――。
 アバランチは、アバランチの敵たる神羅カンパニーの人間を捉えた場合、此処へ収容するようになっている。そこは迷路の如く入り組んでおり、広さからすればかなりのものがある。
 その迷路のような廊下を進んだ先には一つの行き止まりの廊下があり、そこに幾つか並んだ部屋こそが、いわゆる"牢屋"の役割を果たしていた。
 今日もまた一人、その牢屋の餌食がやってくる。
 それは神羅カンパニーが擁するタークスという組織の人間で、どうやら最近入ったばかりの新人のようだった。
 アバランチ兵の一人はその新人を引き連れて行き止まりの廊下までやってくると、そこにその新人をポイと放り込む。
「ほらよ、そこでじっとしてな!」
「おい、待て!」
 そう叫んでみるが、勿論アバランチがその言葉に耳を貸すはずなどない。
 バタンと無情に閉まったドアの中で、新人タークスは溜息を吐かざるを得なかった。
 ――――――――何故こんな失敗をしてしまったのか…。
 心に思うのはそれ一つ。
 たとい新人とて、こんな失敗が許されようハズも無い。何しろ敵に捕まるというのはミスの中でも重大なことだ。
 現状ではこの部屋に閉じ込められただけではあるが、例えばこの先、情報を聞きだそうと何かをされる恐れもある。何しろアバランチにとって神羅というのは天敵なのだから、その天敵の欠片を手にしたことはかなりの大事と言っても良い。
 ――――――――殺されないだけ、マトモか…。
 まずはそう思うしかない。
 例えこの先何が起こるか分からないとしても、である。
 しかしそれでも望みというのは存在しており、自分が捕まったという情報が本部にさえ届いていれば救出の望みも残されている。しかしそれはある意味では屈辱的なことかもしれない。タークスの名にとってみれば。
 ともかく落ち着くか。
 そう思った新人タークスは、ふっと後ろを振り向く。
 と、その時。
 
「ども、ども、こんばんわあー」
 
「!?」
 ――――――――――何奴!?
 そう思ったがその答えはその瞬間に出ていた。
 そう、それは…。
「お前は……!」
 それは―――――――――トンベリだった…。
 何で収容される部屋にトンベリがいるんだ!?…そう思ったが、これはもしやトンベリに襲わせようとかそういう算段かもしれない。となると此処では闘うのは当然。
 そう思ってチャキリと武器を構えた新人タークスだったが、その姿を見たトンベリは焦った調子で包丁を振り回した。っていうか、とっても危ない。
「わわわっ!やめてっやめてっ!襲わないでっ」
「うるさい!喋るトンベリなんか信用できるか!」
 武器、準備OK。
 しかしトンベリは、更に焦って包丁をグルグル回す。っていうか本当に危ないから。
「やめてぇ!襲わないでぇ!ただお話したいだけなのにっ!」
「……は?」
 何だそれは、そう思って思わず力が抜けた新人タークスは、暫し目前のトンベリをまじまじ見詰めた。
 するとトンベリは、愛らしい…かどうかは甚だ疑問だが、自称愛らしい眼をうるうるさせながら包丁を振り回した。そしてこう言う。
「ワシ、もう長らく此処に住んでます。三食昼寝付きでたまにオヤツも出てきます。快適です。あ、因みにお給料はナシです。でも住宅ローンはありません。無料です。でも…話し相手がいないです」
「…はあ、そうですか」
 トンベリの身につまされる話を聞いて思わずポカンと口を開けた新人タークスは、何だか武器を構えるのもバカらしくなってしまい、その場は一先ず武器をしまった。しかもいつもの癖でうっかり敬語になってしまう。トンベリ相手に敬語…どうかと思う。
 …っていうか。
 喋るトンベリの時点でかなり不審だというのに、何だコイツは?
 話し相手が欲しいとか、普通そんなこと言うか?
 ―――――――絶対ありえない。
 しかしどうだ、目前のトンベリときたら話し相手ができたことを相当喜んでいるらしく、うるうるさせた眼から涙を流し、ついでといっては難だが鼻から鼻水まで垂らしていた。そこで「うわっ。汚いな!」と突っ込みたいのはやまやまだったが、それ以前にそれが本当に鼻なのかどうかが気になって仕方無い。しかし此処で「お前って顔の組織ちゃんとあるのか?」などと聞こうものなら、きっとこのトンベリは更に濁流を眼から流すに決まっている。
 さすがにこの新人タークスも人間だったので、そこは一つ人間の優しさというものを見せてやった。…相手は人間じゃなかったけど。
で。
「…それで…お前、何ていう名前なんだ?」
 新人タークスは、ともかくその当りに腰を下ろすとそんなことをトンベリに聞いた。
「トンベリです」
「……。…いや、それは良く分かってるって。トンベリの種類なんだろ?で、お前の名前は?」
「だから、トンベリです」
「……」
 ―――――――――分かってるって言ってるだろうがああああ!!!
 新人タークスはそう心の中で叫んだものだが、それを頑張って口に出さずにおくと、にっこりと笑ってやった。そしてなるべく穏便に言う。
「へ、へえ…そうか。トンベリの種類の、トンベリさんか」
「オスです」
「ああ、そう!じゃあトンベリ君ってわけか!」
「はい」
 トンベリは何だか嬉しそうだった。
 あんまりに嬉しいからか、また包丁をグルグル回している。…危ないから止めて欲しい。
「あの、あなたの名前は何ですか?」
「は?俺?」
 まさか、人生の中でトンベリに名前を問われるなどとは思いもしなかった。
 しかし新人タークスは親切にも己の名前を教えてやることにした。まあ滅多にないだろう、トンベリと仲良くおしゃべりということなど。
「俺の名前は、ロッド」
「ロッドさんですか!分かりました、じゃあよろしく、ロッド!」
「……」
 ……最初っから呼び捨てかい!
 そうツッコみたい。
 しかも、別にヨロシクしなくて良いし!ともツッコみたい。
 しかしそれでも敢えて人間の優しさを見せて何も言わずにおいたロッドは、この異様な空間でこの先どうしようかということを考え始めた。
 まず…此処に誰かが救出に来てくれると考えると、それまでの時間は確実にこのトンベリと過ごさなければならない。しかし逆に誰も助けてくれなかった場合、このトンベリと永遠に語らねばならない。ともすれば自分がトンベリ化してしまうのではないかといった具合だ。あまりに危険すぎる。
 しかし――――――――トンベリと話?
 一体何を?
 どう考えても分からない。っていうか相手は人じゃない。
 しかしそう悩むロッドをよそに、トンベリは嬉々として話しかけてきたりする。一体お前は何なんだ!?、そう問いたい。
「ロッド、聞いて下さい。実はワシ、かれこれ此処に居ついて50年…」
「50年!!?」
 ロッドが生まれる遥か昔であることは言うまでも無い。っていうかアンタいくつだ、と言いたい。それよりむしろアバランチっていつからあるんだよ、という感じだ。
「そう…あれは嵐の夜だった…ワシは可愛い孫娘と別れを惜しみ…」
「孫!!?」
「…ながら包丁を回していた」
「回すなよ!」
「しかしそんなワシを孫娘は…ああっ!思い出すだけでも涙が…!!」
「お、おい…大丈夫かよ、一体何があったんだよ、孫娘と」
「そ、それが…孫娘はワシを見て…」
「見て…?」
「―――――――――嬉しそうだった……」
「のろけかよ!!」
 心配して損した。っていうか心配した自分が余程アホらしい。
 そもそもトンベリの孫娘というのはやはりトンベリの姿形なのだろうから、全然ちっとも可愛くない。むしろ見分けが付かないはずだ。
「…ロッド、しかしそれだけでは話は終わらないのです…」
「はあ…あ、そう。で、何?」
「ワシは孫娘との分かれを済ませた後、ルンルン気分で家に帰っていたのです。ところがどっこい、そこでアバランチが現れたんです」
「アバランチ…」
 一体アバランチがどう絡むというのだろうか。かなりどうでも良いが、ちょっとだけ気になるような気にならないような微妙な気分である。
 するとトンベリは、おーいおいおいと泣きながらこう訴えた。
「ワシは孫娘とまだ幸せに過ごしたかったのに、アバランチが…アバランチがワシに言ったんです!お前の孫娘は預かった、って…!!」
「誘拐…!?」
 ガーン。
 まさかアバランチがトンベリを誘拐したなんて…そんな面白い事実がこの世に存在していたなんて考えもしなかった。
「しかもしかも!孫娘を返して欲しくば此処に来いといわれて…だからワシは此処にきたのに、その途端にこの牢屋に閉じ込められたんですっ!」
 うわ〜ん、孫娘に会いたいよ〜!、そう言って泣き喚くトンベリ(推定115歳・オス)を見て、ロッドは溜息を吐いた。
 全く、トンベリもトンベリだが、トンベリを誘拐するアバランチもアバランチである。一体何を考えているやらさっぱり分からない。
 ロッドは親切にもトンベリの小さな背をトントンと叩いてやると、まあ元気出せよ、などと慰めたりする。一体何が悲しくてトンベリの背をトントンなどと叩いて慰めなければならないのだろうか、かなり疑問である。
 しかしトンベリは、そんなロッドの優しさに心を打たれたらしく、何を思ったのかロッドに抱きついてきた。
「ロッド〜っ!」
「うわっ!バカ!包丁回すなああ!!」
 ―――――――――ロッド、負傷。
 …っていうか。
 事あるごとに包丁を回すな!、と言いたい。
 おかげでロッドのHPゲージは少し減ってしまった。これでもし誰かが救出に来たら、そのゲージを見た時に「何でゲージが減ってるんだ」と言われるに決まってる。そこでうっかりトンベリに抱きつかれてさ〜などと言おうものなら、ひかれる事請け合いだ。間違いない。きっと救出しないでサクッと帰ってしまうだろう。
「…最悪」
 はあ、そう溜息を吐いたロッドは、トンベリを見遣って「その包丁振り回すの、やめろよ」と忠告した。
 するとトンベリは、ロッドを負傷させてしまったことに罪悪感でもあったのか、今度はめそめそとしてこう言い出した。
「ご、ごご、ごめんなさい…だって、だって…あんまり感動して…」
「分かった分かった。ありがとよ。でもお前、その包丁は危ないから―――――」
「うわ〜ん!だからあの日も孫娘を傷つけちゃったんだ〜!」
「誘拐じゃなくてお前が殺したのかよ!?」
 どうりで孫娘に会えないわけだ。
 となるとアバランチが誘拐したんじゃないんじゃないか?
 ――――――――と言う事は。
「おーい、トンベリ。おやつの時間だぞ」
 と、その時。
 ドアの向こうからアバランチ兵の声が聞こえた。するとトンベリは嬉しそうに包丁を振り回してドアの方に行くではないか。
「うわっ!おやつ〜っ!!」
「……」
 ―――――――――――何だコイツ!?
 …そう、そういえばトンベリは言っていた。
 三食昼寝付きで時々おやつも出て、給料はないけど住宅ローン一切ナシの無料で、此処は快適だ…と。
「…お前えええ!」
 
 
 おやつを食べた後の満足げなトンベリとの戦闘は、呆気なくロッドの勝利と終わった。
 それは甘く切ないトンベリの物語――――――――なわけはないが、ともかくかなりどうでも良いアバランチ捕虜収容所での出来事であった…。
 
 
 
 END
 
 

 

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