一日一善 「遅れましたー!」 そう言って入ってきたロッドに、部屋中の全員がそちらを向いた。 最早注目の的だ。 俺はその中で何事もなく振る舞ってたが、周りは違った。 「はい、遅刻っと。これで五回目。こりゃクビも覚悟だな、っと」 「だあ〜!それだけは勘弁!その分残業するから!」 「だーめ!俺は早く帰りたい」 相変わらずレノさんとの漫才みたいな会話をしてロッドは結局許される。多分この男の持味なんだろうが俺には真似できない所業だ。 とにかくロッドが遅れてきたお陰で延期してた任務説明が始まると、俺はその内容にウンザリする事になった。 アバランチの動向が情報上入って来ない事で通常任務…要するに警備。 ツォンさんはヴェルド主任不在の為に代理で情報管理をリアルタイムにやらないとマズイというから、レノさん以下は全員その任務らしい。しかも俺に割り振られたのは八番街…そうだ、初歩も初歩だ。 「主任から情報が入り次第他の任務に就く事になる。が、それは今日か明日かは分からない。警備といっても気を抜くんじゃないぞ」 ツォンさんのその号令に取り敢えず頷いた俺は割り振られた警備ポイントへと急いだ。その間、ロッドはやっぱりレノさんと漫談なみの会話をしてた。 「レノも八番街?俺と一緒だな!」 「お前と一緒にするなよ、と。それに俺の事はレノ様と呼べ」 「うげえ〜レノ様だって!気色わりぃ…」 「天誅!」 「いでっ!!」 …おかしな奴らだ。 警備ポイントに着くと、俺はツォンさんに連絡を入れた。 これはポイントに着いたっていう連絡だ。 「よし、ロッド。そのまま警備に当たれ。何かあったらすぐ連絡しろ」 「了解」 俺は携帯を切ると、いつも手にしてる拳銃の一つを仕舞いこんだ。 今迄の経緯からして今日ミッドガルにアバランチが出るという事は無いだろう。そう踏んで、通常警備として不審がられることが無いようにそうしたが、そういう時に限っておかしな事が起こるらしい。 ガサッ。 「!」 突然音が響いて、俺は銃を構えた。 茂みがあるわけでも無いのにいかにも不審だ。 「おい、誰だ」 取り敢えずそう声をかけると、そのガサガサという音は途端に止んだ。…やっぱりおかしい。 さっきの音はどこから――――――…多分、路地裏からだろう。 俺の背後は煉瓦作りの建物で、その隣の建物との間に僅かな隙間がある。もし人が隠れるとしたらそこしかない。 「……」 俺はその路地裏に近付くと慎重に壁の端までを辿った。そして、路地裏の中をチラリと見やる。 ――――――と。 「!?…何やってるんだお前?」 「やべ!見付かっちまった」 …俺は唖然とした。 何しろそこに居たのはロッドだったから。 「いや、悪い悪い。ちょっと待っててくれよ、別に不審な事とかしないからさ」 「……」 …お前が不審な事をしたらマズイだろうが。当然だ。 「が〜こういう時器用なヤツがいると助かるんだよな」 ロッドはブツブツ言いながら何かをやっている。どうやら荷物のようなものを結んでいるようだ。…って、一体何やってるんだこいつは?? 俺が茫然と見遣っていると、その内ロッドはその荷物を結び終わったと見えて「よし」だとか言い出した。どうやら荷物は出来上がったらしい。 「おい、できたぜ」 誰に話し掛けているんだかそんなことを言ったロッドに、どこからか返答が響いた。 誰だ? 「悪いな、兄さん」 「良いんだって。困った時はお互い様だ」 やがてロッドの背後から男が現れ、その男はさっきの荷物を鷲づかんだ。それからロッドに笑いかけて立ち上がると、俺の横を擦り抜けていく。 「……」 何だあの男は? 黒い服に黒い帽子…何だかあまり良い印象を受けない。 それにあの荷物は一体…。 「今の男は何だ?」 「ああ、なんか困ってたから」 俺の問いにロッドはそんなふうに答える。が、俺にはどうもそんなふうには見えなかった。とてもじゃないが、あの男が困っているふうには。 それでもロッドはこんな事を言う。 「一日一善っていうだろ。アレだよ、アレ」 「?」 「困ってる人は助ける!俺、最近ソレを心掛けてるんだ」 「じゃあ今のもそれか」 「まあ、そうだ」 ――――そういうものか? 俺にはよく分からないが、まあ悪い事じゃないだろう。 ロッドが言うには、あの男は荷物をぶちまけて困っていたらしい。だからそれを手助けしたのだと。確かにそう言われると頷ける気もするが。 「さて、警備に戻らないとな」 そう言い出したロッドはどうやら俺の近くのポイントで警備を担っていたらしい。俺もそれに従って警備ポイントに戻ったが、それでもそのままの警護を続行する事は出来なかった。 「いつもやってるのか、あんな事を?」 「まあな。そのお陰で俺は毎朝遅刻…ってか朝に限っておばあさんが困ってたりしてさ…本当にタイミング悪いんだよな」 毎朝? おばあさん? 俺はその言葉に驚いた。 ということはロッドはいつもその為に遅刻をしていたということじゃないか。別に寝坊でも何でもなく、それは人助けで…。 俺はその事実に対して驚いてロッドを見ていて、ロッドはそれを不審に思っていたみたいだった。多分その時の俺は余程目を見張っていたんだろう。 「何?」 ロッドはそう聞いてくる。 だから俺は慌てて口を開いた。 でもそれは思ってもみない言葉で、俺はそんな説教じみたことを言いたいわけじゃないのにそれを止められなかった。 「それでも遅刻は遅刻だ」 「ああ、分かってる」 ロッドはそう謝ってくる。 でも俺はそんなのは違うと思っていた。ロッドは悪い事なんて何も言ってない。やってない。 そう思っているのに何故か俺の口は説教をしていた。 「大体タークスが目立つ行動をするのは良くないだろう」 「ああ、分かってるけど」 「一日一善は良い事だが考えものだな」 「……そうだよな」 そんな俺の言葉はロッドの顔を背けさせ、最後には口を閉ざさせた。 俺はそんなロッドを見て、やはり顔を背ける。 何故そんな事を言ったのか―――――俺にはよく分からなかった。 ピロロロロ ピロロロロ その時、ふと携帯が鳴った。 俺の携帯とロッドの携帯が同時に鳴ったという事はこれはツォンさんからに違いない。 いかにも雰囲気が悪い状態だったが、それがツォンさんからの連絡となれば俺達は携帯を取らない訳にはいかなくなる。何より任務は第一だし、それに確か新しい任務の連絡が入るかもしれないと言っていたはずだ。 俺はともかくその電話を取った。 ロッドもそれを取っていた。 ―――――――そして。 「な…!?」 「はあ!?」 俺達は同時に叫んだ。 ツォンさんの指示に従って行動した後本部に戻った俺達は、そこでみっちりと説教を受ける事になった。 「一体どういう事だ!お前達がいながらこの事態…だから気を抜くなと言ったんだぞ」 俺達の前にはツォンさんが立っていた。 主任代理のツォンさんは俺たちの失態に困ったふうな顔をしている。 詳しく言えば俺達というよりもロッドに、だったが、警備ポイントが近かった事で俺は連帯責任だ。 俺たちが怒られている理由―――――それは例の男の事だった。 そうだ、ロッドが助けたあの男だ。 あの男の荷物の中身は大量のギル、そしてそれはどこぞの店から盗まれたものだったらしい。要するにあいつは…強盗だ。 俺たちはよりにもよって強盗に手助けしたわけで、それははっきり言ってしまえばかなり馬鹿げた話だった。ロッドなんかは荷物の中身を見たくせにそれに疑問を持たなかったんだからかなりの過失だろうが、妖しいと思いながらも止めなかった俺もやっぱり過失だろう。 まさかその詳細など報告出来なくて、とにかく俺達は説教を受けるしかなかった。 「とにかく被害が無くてよかった。金銭も無事返った事だしな。…私達には無関係な事のように見えるが住民の安全は確保されて当然とみなされる。それは我々が警備をしているという前提があるからだ。分かるな?」 「…ああ」 「…はい」 俺達はツォンさんの言葉に頷く。 詳細を知らないツォンさんは俺達の警備ポイントにあの男が居たにも関わらず、あの男を見つけられなかった事を言っているんだろう。…勿論本当のところは違うんだが。 「とにかく、引き続き警備してくれ。不審な事があったら今度こそすぐに連絡だ」 俺達はそれに頷き再度警備ポイントへと向かう事になったが、何故だかツォンさんは配置を変えなかった。本来なら配置を変えた方が失敗の上塗りを防げると考えられるのに……でもそれはきっと、ツォンさんの最後の言葉に関係してるんだろう。 「お前達二人には、期待している」 ポイントまで向かう間、ロッドは俺をチラチラ見てきた。 一体何だと聞いてみると、どうやらさっきの事が関係しているらしい。 「なあ…リグナムの言ったとおりだったな」 「?」 「ほら、タークスが目立つ行動するなとかさ。…悪かった、全部俺のせいだ」 ロッドは俺に頭を下げながらごめんと言ってきた。 それを見た俺は、何とも答えられないままだ。 何しろあれは勝手に口をついた言葉で俺の本心とは少し違う。それなのにロッドはまだ謝って来る。それは主に俺が一緒に説教を受けた事について。 「別に気にしてない」 「マジかよ?」 「…ああ。それに俺にも過失はあった」 その言葉にロッドは首を傾げる。俺の過失というのが謎らしい。 だから俺は、不審に思っていたのに何も言わなかったという事をロッドに告げた。 「だから黙ってたのか?」 「黙ってた?」 「ツォンさんに本当の事、言わなかっただろ」 もし言ったらリグナムは説教だって軽減されただろう、そう言うロッドに、俺は少し考えてからこう言った。 それはあの時、心にも無い事を言ってしまった俺への、せめてものフォローだった。 今更あの時に返って、良い事じゃないか、とは言えないから…な。 「俺にも過失があるし…それに、一日一善も良いかと思ったんだ」 それを言った後、ロッドはやけに嬉しそうだった。 …やっぱりロッドは、おかしなヤツだな。 「遅れましたー!」 翌日、ロッドはやっぱり遅刻してきた。 それを待っていた俺達の中で、やっぱりレノさんが文句を言う。 「はい、また遅刻、と。あーこりゃクビだ。もう明日には籍も無いな、っと」 「だあ〜!ちょっと待て、レノ!残業するから!」 「はい、無理!俺は早く帰りたいんだぞっと」 そんな事を言いつつもやっぱりレノさんはロッドを許す。他の皆も同じだ。 やっぱりこれがロッドの持ち味なんだろう、俺には真似できない、そんな持ち味。 でも今日はもう、俺もレノさんと同じ心境だった。勿論俺にはあんな軽いやりとりは出来ないが、それでも心持ちはレノさんと同じく軽い冗談を言いたいくらいのところだった。 「あ〜もう!」 レノさんとの漫談なみの会話を終えたロッドは、そう愚痴った後に、何故だか俺を見てくる。 それから何故か――――――俺に、近付いて来た。 「よ、おはよ!」 「…ああ」 挨拶? 俺に? …何だか珍しいが、取り敢えず俺はそう返した。 するとロッドは俺の肩越しに小さい声でこう言う。 「今、俺に対して一日一善したんだ」 「……」 「お前にとってもそうだったら、言う事無いけど」 その一つの挨拶が、ロッドにとって良いこと。 俺にとっても良い事だったら……"言う事無い"? 「……」 言葉は、出なかった。 でも俺の口は今度こそ正直に笑っていた。 それは勿論―――――当然に、決まってるだろう。 END |
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