Cinderella(第十二話)

Cinderella

12.大好きな王子様の本性

 

晴れて…というか、俺とアカネは付き合うことになった。

この事実を一応兄貴にも伝えておいたけど、兄貴はしきりと、あの時浜瀬を泊まらせたりしなければ良かったと嘆いてた。ほんと、よく言うよ。俺が女だってことを熟知してたくせにアカネを泊まらせてやってくれなんて言ったのはどこのどいつだよ?そう思ったけど、今ではそれも笑い話な気がした。

アカネはというと、今はバンドメンバーのご近所に住んでいる。

俺の家からは電車で3駅くらいあるところだ。

それでもアカネはたまにふらりと家にやってきて、やっぱり此処が良いなーなんて言って泊まっていったりする。俺には、それがちょっと嬉しかった。

ところで…。

最近になって分かったことだが、アカネってやつはどうも一途すぎて、どこかプッツンしてるところがあるらしい。俺はそれを嬉しいと取れば良いのかどうか時々悩んでしまうことすらあるんだけど…まあユリちゃん曰く、良い彼氏じゃないですか、らしい。

アカネの奇行…その1。

やたらめったらと俺の職場にやってくる。

アイちゃんがその度に奇声を上げてるけど、さすがのアイちゃんもアカネの性格には呆れてしまったらしい。というのも、携帯電話の番号を聞いても一切教えない、バンドの話をしようとしてもその話は駄目ね、と蹴る。じゃあ何を話してくるかといえば…。

「もうー園ちゃん聞いてよー。アカネ超ウザいんだけどー」

「え?どの辺が?」

「だってー”俺彼女が一番大切だから他の女とか興味ないしー”とか言ってんの。彼女が可愛いすぎて毎日幸せだとか言っちゃってんの。マジウザいー。イケメンなのにウザすぎ」

「あ、あはは…」

そう…アカネはいわゆる”デレデレ系”だったわけで…。

最近流行りのツンデレってやつがあるけど、アカネはツンがないから、ただのデレデレだ。アイちゃん曰く、いつも鼻の下が伸びてるらしい。そんなことをファンの前で言っていいのかねって思うけど、アカネは一切お構いなしってカンジだ。

まあ俺にとってはアレだ…デレデレっていうより…デレサマって感じだ。デレサマって何だよって?つまりアレだ。いつもはデレデレしててバカっぽいのに、いざって時は微妙に俺様で強引ってこと。

実は…そういうところが好きだったりするんだけどさ。

だけど実際アカネは、ステ-ジに立ったりするとシャキッとなる。まあそういうふうに見せてるのかもしれないけど、最近対面したバンドメンバーの話によると、いざって時やキレたりする時はマジで手がつけられないらしい…俺も気をつけよ…。

「園部さん、また来てますね、アカネさん」

「はは…ほんっとにな、なんつーヤツだあいつは」

「でもあれ、園部さんのこと見に来てるんですよ。さっきも言われましたもん、園部さんにちょっかい出してる男いない?いたら即教えて?って」

「そんなのいるわけないっつーの!どこまで心配性だよ、あいつは」

「いたらどうするんですかって聞いたら、即殺す!って言ってましたよ」

「で、でたよ…」

最近のアカネの口癖はまさにそれだ。何故か目がギラギラしてるんだ、アカネのやつ…。で、俺が社員と話してるときなんか、じーっと見てんの。怖いから!本当に!ユリちゃんは「愛されてる証拠ですよ」なんていうけどさ…。

ユリちゃんのことは、アカネにも話してある。だからアカネも、俺とのことをユリちゃんには話してるらしい。俺はそれをユリちゃんから聞くんだけど、何だか変なネットワークが出来上がってるってわけだ。

アイちゃんについては、とりあえず秘密にしてある。だからアカネが俺の職場にきたとき、アカネが話すことは、アイちゃんに対してとユリちゃんに対してでは全然違うというわけ。

「でも、なんか悔しいなあ」

「何が?」

「だって、園部さんとデートできるって思ってたのに、アカネさんに怒られちゃいそうですもん。行きたかったなーデート」

「え?何で?大丈夫だよ、行こうよ」

「本当ですか?やったー楽しみだー。私、アカネさんに自慢しちゃおっと」

ユリちゃんは本当にそれをアカネに自慢したらしく、アカネはアカネで物凄く悔しがってたらしい。だけど俺がユリちゃんのことをすごく信頼してるって知ってるから、泣く泣く、じゃあ楽しんでこいよ、とか言ってたらしい。おいおい…君らね…。面白すぎるから、ほんと。

 

 

 

とりあえず、こうして俺の初恋は実ったんだ。

ちょっとおかしな気もするけど、そんなところも含めて、俺は今すごく幸せだって思う。

俺の携帯電話には、アカネとお揃いのストラップ。

すりきれるまで、一緒にいたいな。

それで、もしすりきれたら、今度は一緒にストラップを買いにいきたい。

そうやって、ずっとずっと一緒にいられたら良いな。

俺は、アカネを好きになってよかった。

今、心から、そう思う。

 

 

 

 

END

Cinderella(第十一話)

Cinderella

11.YES

 

茫然自失…まさにそんな気分。

俺はどっかの低脳ロボットになったみたいに、カタコトの言葉で仕事をしてた。多分俺のしゃべった言葉は全部カタカナだったろう。オキャクサマ、コチラデヨロシイデスカ…カタカタ、みたいな。

アイちゃんにはとてもじゃないけど言えなくて、取敢えずユリちゃんには報告しておいた。最初俺はカタカナで喋ってたからユリちゃんは何を言ってるのかさっぱり分からなかったらしい。

「本当ですか!?やったー園部さん良かったですね!私も嬉しいです!」

「俺どうしたら良い!?なんかもう頭が真っ白で俺…」

「どうって、1つしかありませんよ。園部さんはアカネさんのことが好きなんだし、アカネさんだって園部さんのこと好きなんだし、これって両想いじゃないですか。普通に付き合えば良いんですよ」

「つ、付き合うっていったって…でもアレ、そういう好きじゃないかもしんないし…単に家に帰らせるための手段だったのかも、とかさ…」

「そんなことないですよ。絶対違いますって。だって相手の職場でキスなんてしませんよ、普通」

「キっ…!そ、そうだけどっ!」

俺はまた恥ずかしくなってきた。思い出すだけでも恥ずかしい。

アカネのキス……。

うわっ、もー駄目!思い出すとヤバイっ!

「とにかくもう一度会って、ゆっくり話し合ったら良いと思いますよ。絶対良い方向にいきますけどね」

ユリちゃんのにっこり笑った顔が、何だか天使に見えた。ありがとう、ユリちゃん。俺は頑張るよ。今度こそちゃんと、アカネに言う。

今更だけど、好きなんだって、そう言ってくるよ。

自分の口から。

 

 

 

レジに向かう前に、アカネが言ってた言葉を覚えてる。

家で待ってるから必ず帰って来い、と。

だから俺はユリちゃんの家にサヨナラして、自分の家へと帰った。アカネはもう荷物を纏めたかな。そう思っていたけど、実際帰ってみるとそうでもなかった。とはいえ、半分くらいは荷物がなくなってる。それを見て、アカネが出ていくことには代わりがないんだなってことを、俺は実感していた。

アカネの帰宅は、やっぱり遅かった。待つこと2時間、やっぱりいつも通りだ。

ただいまー、と声がしてガチャ、とドアが開いた瞬間、俺の体はビクッとした。昼間あんなことがあったばっかりだから、やっぱり恥ずかしい。だけど何故か、怖いと思うことはなくなっていた。

「お、居た居たー。ちゃんと帰ってきてくれて良かった。じゃあ…えっと、これだ。はい、これはジュンの分な」

アカネは、帰ってくるなり俺に何かを差し出した。見てみるとそれは、昼間ウチの店で買った携帯ストラップだった。2つって…じゃあ、1つは俺へ渡すために買ったってことか?

「俺とお揃いな」

「えっ」

「あ、何だよソレ。嫌?」

「ち、違う違う!そんな全然っ!嫌とかじゃなくて…その、なんていうか…あ、ありがと」

「どーいたしまして。今時サムいとか言うなよ。なんか良いだろ、いつも一緒にいるみたいじゃん。俺そういうの結構好きなんだよなー」

「へえ…ってオイ!なんかそれ恥ずかしいんですけどっ」

「そうか?」

アカネの携帯には、既にあのストラップがぶらぶらとぶら下がっていた。ああ、本当にお揃いなんだ…。なんか…良いのかな、俺…。俺はアカネのくれたストラップをまじまじ見てた。アカネとおそろいのストラップ…。

「なあ、ジュン」

アカネが俺の脇に腰を下ろしてきて、さっきまでとは違って、ちょっと真面目な声を出す。俺はアカネを見て、何だか急に切なくなった。何でだろう。

「俺、この家を出てくけど、ジュンとはずっと一緒にいたいって思ってる。昼間のことは嘘じゃないからさ。お前を連れ戻すためとか、そういうことじゃないから。ちゃんと、好きだから」

「そ…そんなこと…」

恥ずかしさと、切なさが、入り混じってる。何なんだろう、この感覚…良く分からない。嬉しいはずなのに切ないって、どういうことなんだろう。

「だけど、ジュンのこと女の子だって気づかなくて本当にごめんな。俺って最低な男だよな。気づけよってカンジ。でも、ジュンが女の子だって知ったとき、正直嬉しかったなー」

「え…なんで?」

「だってさー。白状するけど、俺、結構悩んでたんだよな。ここ最近ジュンのこと見てるとなんかこうムラムラしちゃってさー」

「ム、ムラムラ!?」

「そうそう。だから俺は、自分ってもしかしてバイなのかなって思い悩んでたわけ。もういっそ男でも良いから押し倒そうかとおもったけど、ジュンがトラウマになるかもなーとか思うとそれもできないしさー。ホント困ったぜ、あれは。勃っちゃったよ、どーしよーとか色々…」

「ちょ、ちょっと…あの、話題が濃すぎるんですけど…」

「あ。ごめん」

な、なんだそのムラムラって…ちょっと…。俺はクラクラしてしまった。でもそのおかげで、切ないとか思ってた気持ちは薄れたらしい。どっちかというと恥ずかしい気持ちが勝ってしまった。

「でもま、要するにアレだ。それだけジュンのことが好きってこと。分かった?」

「…はい」

「取敢えず俺はそういう気持ちでジュンのこと見てるから。ずっと言えなかったけど、こうやってちゃんと言える日が来て良かった。あの日、園部が来なかったらこんなふうにできなかったかもな」

「あ!そういえば兄貴…!」

そうだ、すっかり忘れてたけど、兄貴はどうなったんだろう?

アカネに殴りかからんばかりの勢いだったけど、何とか収まったってことなのかな。気になってその辺りを聞いてみると、アカネは問題ないってふうに笑った。その理由を聞いてみると…なるほど。そういうことか。ものすごく納得である。

どうやら、兄貴の彼女というのは、アカネのバンドのファンだったらしい。その彼女にマジ惚れしたウチの兄貴は、友達のアカネに頭を下げて何とか近づけるようにお願いしたという…まさか兄貴にそんなエピソードがあったとは知らなかった。

「俺はキューピッドだからな。園部が俺のこと殴れるわけないっての。それに俺、実際にジュンに手出してないじゃん?俺には非が無いし」

「え…でもさ、それってその…兄貴の彼女、アカネのファンだったらさ、今もやっぱり交流があったりすんの?」

「んーまあ連絡先は知ってるけど、別にわざわざ連絡は取らないかな?それにその子、ファンっていってもヴォーカルのファンだからな。俺のファンってわけじゃないから」

「なんだ、そっか…」

「あはは、今ちょっとホッとしただろー?ジュンってホント可愛いなあ」

「なっ!」

そんなわざわざ口に出さなくても良いのに!

したよ、そりゃしたよ、ホッとしたさ。

だって…。

「仕方ないじゃん!だって俺…アカネのこと…す、好きだし…」

「だろ?なー?……って、は!?ちょっと待った、もう一度!」

「うるさいなっ!何度も言わせるなよ、恥ずかしいじゃん!」

「だって聞こえなかったしー。いやー残念残念。で、何?ワンスモアプリーズ?」

「だっ、だから!す…好きだって言ってんだろこのバカーー!!」

俺は恥ずかしさにまかせてアカネの頭をポカポカ叩いていた。何ていう奇行だよ、俺…よっぽど恥ずかしいじゃん…。だけどアカネは、あはは、って笑ってた。俺のポカポカを避けながら、面白がってるふうだった。

「そうだよなーだって俺が女連れ込んだとき泣いてたもんな。あれってやっぱ、俺に他の女とやって欲しくないから泣いてたの?」

「ば、バカじゃないかお前!?そんなこと聞くかよ普通!」

「いや、だって、何でこんなことで泣くんだろーって思ってたからさ。でももしそうだったらすげー納得。あー惜しかったなあ。やっぱあのままジュンのこと襲ってれば良かったかも」

「ちょっ!だから何でそーなるんだよ!?」

何だかもうわけわかんなくなってきた…。なんなんだ、この緊張感の無さは!?ものすごくアカネのこと好きで、こんなことになったらどうしようとか、俺じゃあ絶対無理だとか、すごくすごく悩んでたことがバカみたいに思えてきた。

でも…それもこれも、アカネが俺を拒絶しないでいてくれたからなんだよな。だから俺はこんなふうにいられるんだ。

俺はやっぱり外見上男っぽくて女の子みたいなとこなんて微塵もなくて、本当に何もないけど、それでもアカネは俺を好きだって言ってくれた。こんな嬉しいことって他にないよ。可愛い子なんてほかにもいっぱいいるし、アカネのこと好きだって思う子だって絶対多いのに、そんな中でこんな俺を選んでくれたんだもんな。

今でもまだ信じられないけど…でも、嬉しいよ。

俺が、初めて好きになった人。

「じゃあ、取敢えずさ。改めて言うけど…俺と付き合ってくれるか?」

ううん、なんて言うわけないじゃん。

答えは、うん、しか無いよ。

 

 

 

Cinderella(第十話)

Cinderella

10.魔法が切れた後

 

ユリちゃんの電話番号を聞いて置いてよかった。

俺は迷った挙句にユリちゃんに電話して、その晩は泊めてもらうことにした。俺があんまりしょんぼりしてたからだろう、ユリちゃんは心配してくれたけど、全部を話したら、大丈夫ですよ、といって笑ってくれた。

ユリちゃんのいれてくれたあったかい紅茶で、少しだけ気が休まった。それに、ユリちゃんといろんな話をしていたら、随分と肩の力が抜けた。感謝してもし尽くせない。

「じゃあ園部さん、私とデートしましょうよ。美味しいものいっぱい食べて、買い物もいっぱいするの。私、園部さんの服選んであげる!きっと似合うの見つけますから」

「うん、ユリちゃんとだったらいつでもOKだよ」

「本当に?やったー、園部さんとデートだー」

無邪気にはしゃぐユリちゃんに、俺もつられて笑顔になる。そうだな、こういう時はそんなふうに遊ぶのが一番かもしれない。

きっと疲れてたんだ。あんまりずっとアカネのことを見てたから。でも、きっとこれで楽になれる。楽になれるんだ。

 

 

 

異変が起こったのは、それから2日過ぎたあとのことだった。俺は未だにユリちゃんの家に厄介になってて、そろそろ家に帰らなきゃな、なんてことを思ってた。アカネは荷物を纏めたかな。できればすっかりきれいになってれば良いのに。そんなことを思って仕事をしてるときだった。アイちゃんが俺の方に駆け寄ってくる。

「園ちゃんー、超ヤバイ!今さ、Gloomy Rainのギター来てるー!本物来てるー!」

「グル…?」

俺は少し考えて、それからハッとした。

そうだ、Gloomy Rainって、アカネのバンドじゃんか!

ってことはつまり、アカネがここに来てるってことか?

「超イケメンなんだけどー。園ちゃんも見てみてよー。アカネ、携番教えてくんないかなー?」

俺はドキッとした。

誰かの口からアカネって言葉を聞くなんて思わなかった。けど、思えばそうだ。アイちゃんなんかにとっては、アカネは有名な存在だったんだ。

「あ、こっち来た!やば、マジカッコいー」

「え…」

アイちゃんの言葉に、俺はつい顔をそっちに向けてしまった。アカネは、縁なし眼鏡をかけて、あの長い金髪を揺らしている。手に何かを持って、辺りをキョロキョロしてたアカネは、化粧品コーナーのユリちゃんに声をかけた。

うわ…なんか不思議な感じだ…。だって、アカネとユリちゃんが話してるなんて…。

ユリちゃんはキョロキョロ売り場を見回すと、最後に俺の方を指差した。それと同時に、アカネが俺の方を向く。目が、合った。それから…。

アカネが、俺の方に歩いてきた。

「園ちゃん、こっち来るよー」

「あ、ああ、うん…」

自分の担当売り場そっちのけでレジにいるアイちゃんと一緒に、俺はアカネがやってくるのを見てた。もうこの際アイちゃんにレジを任せてどっかに行きたいと思ったけど、何だかそれはできなかった。目も、離せない。

やがて、近くにやってきたアカネが、俺に向かって何かを差し出した。

「すみません。コレ、下さい」

「あ…は、はい」

俺は慌てて、商品をスキャンしようとする。が、アカネが突然「あ」と言い出して、俺はその手を止めた。

「すみません、もう一個欲しいものがあるんで…ちょっと良いですか?」

「え!?あ、はい…」

「でもどの辺に売ってるのかな。ちょっと分からないんで、どの辺にあるか案内して貰っても良いですか?」

「あ、はあ…」

俺はアイちゃんにレジをお願いして、レジの中から出る。何だかすごく他人行儀な気がして嫌だったけど、あんな出来事の後だったし、今は仕事中だし、どんなものをお探しですか、と俺は目を逸らしながら聞いた。するとアカネは、携帯ストラップなんですけど、なんて言った。

携帯ストラップ?…まあ売ってるには売ってるけど、何でそんなもの買うんだろう。俺はそんな疑問を持ちつつもアカネを案内する。携帯ストラップの売り場は一番端っこだ。

「あの、こちらになります」

「どうも。じゃあ…どれにしようかな?店員さんはどれが良いとおもいます?」

「え?」

「携帯ストラップ、どれが好きですか?」

「え…えっと…」

サクッとレジに帰ろうと思ってたのにそうすることもできなくなってしまった。何だよ一体。そんなこと俺に聞かなくたって…。

俺は取敢えず、一番無難そうな合皮のストラップを勧めた。アカネだったらこれが一番似合いそうだなって思ったからだ。でも、例えばアカネがこれを付けたからといって、俺がそれを見ることはないんだろうな。…なんて、考える。

「そうか、じゃあこれにしよっと。じゃあ、このストラップ2つ下さい」

「は?」

「あれ、何かおかしなこと言いました?2つ、お願いします」

「あ…は、はいっ」

俺はそのストラップを2つ手に掴んだ。そうしてレジに向かおうとする。

が、そのとき。

「……なあ、店員さん。傍にいたいなんて言ったくせに、自分からどっか行っちまうヤツの心理ってどんなもん?」

背後から、そんな言葉が聞こえて、俺は思わず立ち止まった。

「本気で傍にいたいって思ってくれてんなら、俺の前から消えたりすんなよ。電話しても出ないし、待ってても帰ってこないし、俺どうしたら良いんだよ。どうしたらお前は帰って来てくれるわけ?」

「…お客様、お会計――」

「俺はお前の傍にいたいんですけど」

少し怒ったような声音で、そんな言葉が響いた。俺の心臓はドキンと鳴って、もう少しで心停止でもしそうなカンジだった。

傍にいたいって…アカネが?俺の傍にいたい、って?

まさか、そんな…!

それは俺にとって信じられないような言葉で、だけどめちゃくちゃ嬉しい言葉だった。何だか告白されたみたいで、無意識に顔まで赤くなってくる。ヤバイ。ヤバイよ。今仕事中だし、そうだ、こんな話してる場合じゃ…!

「あ、あの、もうお会計で宜しいですよねっ」

「こっち向けよ、ジュン」

「お客様、あちら――」

「こっち向け」

グイッ、と腕を掴まれて、俺は強制的にアカネと顔を合わせるハメになった。絶対赤くなってる顔をアカネに見られるのが嫌で、俺はすぐさま顔を背ける。俺のバカ!やっぱり逃げてる!アカネはちゃんと俺を向いて話してくれてるのに。

「あ、あの一番下のやつ、ちょっと取って」

「は…?」

「あれあれ、一番下の段にかかってるやつ。あれも買う」

「え?あ、あれ…?」

いきなりそんなことを言われて、俺は言われるままにしゃがみこんだ。アカネと顔を合わせないで済むから丁度良いやなんて思った俺は最悪だったろう。

俺がしゃがみ込んだ瞬間、隣のアカネが一緒にしゃがみこむ。そして、唐突に後頭部をわしづかみにされた。え?って思って思わずアカネの方を向いた瞬間、突然アカネの顔がドアップになって俺の目に映し出された。と、同時に、唇に生あったかい感触があった。

え…う、うそ!?

そんな、そんな―――――え、ええええ!?

驚いて目を見開いた俺の前で、アカネが笑った。

「大好き」